第24話 グッバイお肉、グッバイ脂肪

「じゃあ、始めよか」


 説明も心の準備もなくそれはいきなりだった。

 スピアーの鼻先が私の唇に触れた。

 え……、いまのって……。

 私の思考回路がとまる。だけど、すぐに勢いよく動き出した。

 スピアーは竜で、あれ、人の時ってすごい美形じゃなかった? まって、いまのは竜だから、あれ、あれ?

 私のセカンドキスが!? ブレイドの目の前で!?

 竜だったから、違う!! 違うよねっっ!?


「…………○✕△□△!!??」


 言葉にならない声で抗議する。あと、なんだか体がスースーする。あれ、服がブカブカで……。

 えっと、どなたの手ですか? すっごく細い。

 細くてきれいな手は私が考えたように指を動かす。その手で自分の顔、腹、足を確かめる。触った感触と触られた感触はあるのに、私のお肉がない。ぷにっとしたあの触感がない。


「えっ? え? えぇぇぇ!?」

「どや、うまくいったみたいやろ」


 私のぷにっとしたお肉がないっ。オレ達いつでも一緒だよっていい笑顔で言ってきてた脂肪が!

 消えたっ!!


「さー、オレの番。はよしてくれっ。って……」

「ブレイド!! 見て!! 私、痩せた! 見てーーー!」


 と、言ったはいいけれど反応が薄い。


「あー、うん」


 これだけ。反応が薄すぎる!!


「私、変なのかな。変……」

「いいからはよ、約束守れや!!」


 ブレイドの反応が薄かったからって、二回もちゃんと言ったことを実行してくれたスピアーに何もしないのは駄目だと思う。しょんぼりしながら私は力なく拳を握る。


「ほ、ほーりーストライクぅぅぅ」


 ぺちんと丸い体に一撃をいれる。こんな力のない一撃でもきちんと効果はあったみたい。青い男が姿を見せた。

 しまった。また服を忘れてた。だけど心配は杞憂に終わる。

 ブレイドが布をバサリとかけていた。


「お、よし。人には戻れるな。なら……」


 空気がざわりとした。スピアーのまわりに水の玉が集まる。


「魔法よしっ。あとは――」


 ブレイドのまとう空気も変わる。あとは、竜化の確認だろうか。

 緊張する。このままどこかにいなくなってくれるならいいのだけど……。


「……ふぅーーーー」


 目の前にいるのは、ながーいため息をつく小さな丸い竜。


「やっぱアカンかぁ」


 呟いたあとすぐに竜は人の姿に戻る。


「こっちは戻れるみたいやけど」

「あ、あの……、ごめんなさい?」


 私だけ無事元の姿、からの痩せてしまった罪悪感で謝ってしまう。


「ええわ。なんとなぁーくそんな気はしとったから」

「えっと」

「まあ、エマちゃんが何なのかもだいたいわかったし、よっしゃ」


 何がよっしゃなのだろう。スピアーは足をすぱぁんと叩き笑顔になった。

 あと、エマちゃんって何? すごく馴れ馴れしくなってない?


「エマちゃん、オレもとるから、責任とってな」

「はい?」


 スピアーは親指で自分の唇をなぞり舌をぺろりと出す。そして、いたずらでもしそうな笑顔でこう言った。


「その呪いもまだ残っとる」

「え゛……」

「エマちゃんがオレに自分からちゅーしてくれたら治るんちゃう?」

「無理」


 即答した。その顔面に私が自分からなんて無理ぃぃぃぃ!!

 でも、まだ呪いが残ってるということは……、またお肉さん脂肪さんこんにちはがあり得るってこと!?


「そうかぁー、なら仕方ないわ。ブレイド! オレもここに住むわ」


 スピアーはいい笑顔を浮かべていた。

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