第21話 魔法?それとも

 優しく地面に降ろされてどれくらいだろう。涙がやっと収まってきた。


「どうして泣くほど頑張るんだ? そのままでも十分美味しそうなのに」


 やっと泣き止んだところに追い打ちをかけられる。そのままでもいいと言ってくれるのはありがたいけれど、私が納得してないのっ。私、食べられたいんじゃなくて、ブレイドに可愛いって、好きだって言ってほしいのだもの。食べ物としてじゃなくて、女として見てもらいたい。

 言えないけど……。難しいなぁ。


「エマはなぁ、ブレイドに」


 って、え、待って!? 何を言うつもり!?

 慌ててルニアのところに行ったって間に合う距離ではない。私は棒立ちのまま続きの言葉を聞いた。


「もっと美味しく頂かれたいんだってよ。だから頑張ってるんだ。ほら、肉は引き締まってるのも噛みごたえがあって美味しいだろ?」


 …………。ブレイドと目が合う。そうなのか? とでも言いたげな表情だ。

 言った張本人ルニアなんて、ほら言っちゃえよって顔をしてる。昨日ちゃんと説明しておいたのにっ!!


「わ、わかってしまったなら、仕方がないわ。そうよ、美味しく食べられたいからよ!!」


 違うけど! 違うけど、まだ言うときじゃないと思うの!!

 私はルニアの言葉にのってしまう。彼女の笑い顔ってば、それはもう楽しそうで……。

 あ、あれ? ブレイドが固まってる。


「どうしたの? ブレイド。何か言ってよ」

「あ、いや」


 口に指をあて何か考えているみたい。


「そういう事なら、うん。ボクも手伝うよ。エマ、頑張ろう」


 あーーーーっ!! 違うの。違うのよぉぉ。

 なんて言えなくて、心のなかで涙を流しつつ笑顔で答える。


「うん、私頑張るんだから!!」


 今日も朝からこんなに頑張ったんだから、少しは痩せたよね?

 空に光がさす。真上に太陽がきたってことはもうお昼近く。

 お腹すいたー。


「よし、今度はきた道を戻るぞ!!」


 ルニアが叫ぶと同時に私はブレイドに涙目でしがみつく。


「つ、連れて帰ってぇぇぇ」


 もう足も腰もがくがくなの。あと、お腹すいたぁぁぁぁ。


 今頑張るって言ったばかりとか言わないで。ほんと、ここ遠いのだから。

 ブレイドはルニアに確認するように視線を向ける。


「しょうがない。わたしもお腹すいたしな。よろしく、ブレイド」


 無事、鬼教官の許可がおりたようだ。ブレイドは私を難なく抱き上げる。

 だけど改めて思った。痩せなきゃ……。

 彼の口から「重たい」なんて言われてしまったら、ショックで暴食してしまいそうだもの。

 似たような事は最初いわれたけれど前と今では彼を見る気持ちが違う。


「行くぞ」


 風の魔法だろうか、ブレイドの口が言葉を紡ぐ。

 気がつけば空の上にきていた。


「うわー、うわぁぁぁー、うわーー!!」


 高い。すごい。鳥ってこうやって地上を眺めてるのね。ルニアもオゥニィーも小さくって見えなくなっちゃいそう。

 前回飛んだもとい鷲掴みされ運ばれた時はこんなに余裕なんてなかったから感じなかった。風、光、あたたかさ。

 長く続いて欲しいと思ったけれどすぐだった。


「はやっ!!」

「いや、そんなに距離はないだろ。すぐそこの渓谷なのだから」


 いいえ、とても遠い場所でした!!


「おかえりなさい。ブレイド様。エマ様」


 シルが手をふって出迎えてくれた。


「あ、ルニア様も帰ってこられましたね」


 シルの視界にはルニアが見えてるらしい。ちょっと待って……。

 え、えぇぇぇ!? ルニアもう帰ってきたの? 一体どんな魔法を使ったの? ルニアも飛べるの? でないとおかしいよね?

 ほんとにほんとに、遠かったんだからぁっ!!

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