第12話 竜と魔法

「何、あれ!?」

「こら、身をのりだすな!!」


 ルニアの手で頭を押さえつけられる。手加減されているんだろうけれどけっこう痛い。

 小声で話し続ける私たち二人の前方では大きな獣達の戦いが繰り広げられていた。

 相手に噛みつき、尻尾で殴り合い、爪で掻きちぎる。そして、人間ではある条件でしか出来ない魔法を使った戦い――。


 魔法、それは竜が産み出す物。

 人間は主がいなくなった竜の巣、【竜の寝床】と呼ばれる鉱床から竜魔石を採掘し細工してやっとその力を使える。ただ、希少すぎるため大きな力の物は一部の人間にしか使用できない。

 竜魔石は竜がため込んだ宝石に魔法の力を移すと言われている。あの指輪に使われていた宝石も小さいが竜魔石だった。


「あの大きな体を空に浮かばせるにはやっぱり魔法の力があるんだろうな」


 ルニアは羨ましそうに空を眺める。


「石の一つや二つ退職金がわりにくすねてくればよかったな」


 ルニア、それはかなりの犯罪では? あぁ、でも国に戻る場所なんてないのか。

 私もあそこ使ってた部屋にあったもの全部頑張って持ってくればよかった。ご飯とかご飯とかご飯とか。はっ、そうじゃない、そうじゃない。


「で、どうするつもりなの? 相手は空を飛ぶんでしょう?」

「でも、消耗ははげしいんじゃないか? 地上戦の方が多い感じだし。よし、わたしはもう少し近づいてくる。エマはここに」


 え、ひとりで置いていくの? 無理、今だってビリビリ体中に響く二匹の叫びにぷるぷると震えてるんだから。


「って、おい。何持ってきてるんだ!!」

「え?」


 ルニアは私が大事に懐にいれている物をわなわなと震える指でさしている。

 何って、先ほどのお肉様ですが? 置いておくわけないじゃないですか。私がもらったものなのに。あげませんよ?


「ばっか!! こっちが風上になったら匂いで気付かれるかもだろ」


 急いで風の向きを確認するルニア。すぐに大きく息を吐いた。

 こんなあの二匹にすればちっぽけなお肉の匂いんてわかるものなのかな。気にし過ぎだよ。確かにいい匂いだけど。


「良かった。まだ変わってない。って、続き食べてる場合かよ」

「だって、匂いしちゃダメなんでしょ。ならお腹の中にしまっておかないと」

「はぁ、まったく」


 そんなやり取りのあとすぐに、そうすぐに変わったのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ(小声)」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ(小声)」


 私達の間をすごい勢いで風が通り過ぎていく。お肉を包んでいた葉っぱが空に舞った。お肉は死守したけど。

 あぁ、これで最後まできっちり食べないといけなくなっちゃった。


「あ゛っ」


 ルニアがすごい声を発した。いったい何を見たんだろう?


「ヤバいぞ」

「え?」

「アイツの目に当たった」

「え゛っ」


 私の口からも同じ様なすごい声が出た。黒い竜の目のところ、確かにあの大きな葉っぱがぺたりと張り付いていた。

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