第11話 黒竜

 ドラゴン。今まで生きてきて伝説上でしか聞いたことがない生物。彼らはその姿を見せることが少ないそうだ。それが国を出てハッピーライフ決め込もうとしたこの二日程で次々出現って、なんなの!?


「あの、やっぱりご親戚とかではなく……」


 一応聞いたけれど、ブレイドの様子を見れば一目瞭然だった。


「残念ながら赤の他人他竜だ」

「ですよね」


 ルニアは自分の剣を構えてこちらにきた。あぁ、こう見ればやっぱり彼女は騎士なのだと思う。


「で、どうする? すっげー敵意びりびりだぞ。こんなところまで」

「あぁ、あいつは以前ここに来たことがある。その時はボクが撃退したんだ。だけど――」

「だけど?」


 私の方をブレイドがじっと見る。それから、シルの方へと顔を向けた。


「シル! あとは頼む。すまない。せっかく戻ったんだが」


 そう言って、ブレイドは地を蹴った。高く高く空へと吸い込まれるように。


「赤色――」


 初めてあったあの竜が空を舞った。負けない位大きな雄叫びをあげて。


「ちょっと、何? 私たちはおいてけぼり!?」


 叫んだところで空を飛ぶ彼には届かない。私は空を飛べないもの。


「いったいどうするつもりよ……」

「そりゃ、自分が戦って止めるってことでしょ」


 ルニアは剣を構えたまま、ふぅと大きくため息をはく。


「竜同士の戦いなんて想像つかないな。シル、前回はどんな感じだったんだ?」


 シルはゆっくりと頷くと、目を潤ませながら答えた。


「前回は勝ちました。黒竜は逃げたそうです。ただ拮抗していたようでブレイド様もかなりのお怪我をされて。体の自己治癒を優先させるため竜のまま過ごされそのまま」

「あぁ、そこからか」

「え、何が?」

「エマに会うまでずっと竜だったってことだろ」

「はい……」

「えっ」

「ちなみにどれくらい?」

「2年と半年です。もとに戻れなくて、城に入る事が出来なくなって。僕たちもその後を追うように次々……」


 それからずっと。そっか、だからあんな風にボロボロになってしまったのね。二年ほどでも人の手が入らなかったら――。

 耳を切り裂くような音が響く。戦いでも始まったのだろうか。時折聞いたことがないような大きな音が聞こえてくる。ブレイドに何が起こっているのだろう。


「前回勝ったなら問題なんてないだろ。わたしだけ様子を見てくるか」

「え、私も行くわ」


 そんなに変なことをいったかしら? ルニアは口をへの字に曲げている。


「いやいや、エマは何も出来ないだろ」

「何か出来るかもしれないでしょう!!」


 私の知らない場所で話を勝手に決められるのはもうこりごりなのよ。

 いきなり結果だけ目の前につきつけられて、今日からこれなって言われて納得なんかしたくない。


「お願い。ちゃんと身を隠しておくから」

「と、言われてもなぁ」

「僕からもお願いします!! 僕は皆を誘導するのが精一杯でその……誰かにブレイド様を見ててもらいたいです。本当は僕が行きたいのですがここを任されているので」


 可愛い男の子のお願いにルニアの顔が渋くなる。目と眉と口が真ん中によってる。すっぱいの?


「うー、わかった。わたしはエマのが大事だからいざとなったらエマ優先だからな」

「はいっ」

「エマ、きちんとわたしが言った場所に待機すること」

「わかったわ」


 元騎士団長様の指示通りなら絶対大丈夫よね!!

 その時私はそんな風に考えていた。

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