第5話 近すぎです!!

 ……はっ!!

 あー、よかった。夢かぁ。怖かったー。

 目の前にごちそうが並んでて美味しく食べてたら大きな竜に鷲掴みされて自分が美味しく食べられるところだった。まったく、どんな夢よ。って、ここはどこ? あれ、ここは……。

 起き上がって横を向く。夢で私をむしゃむしゃと食べた竜と同じ金に輝く目と私の目が合う。


「なわぁぁぁー、食べないでぇぇぇぇぇ!!」


 手、手ががっちりと捕まってる。逃げられない!!

 ぐいと強い力で引っ張られる。顔が近付いてくる。あぁ、私食べられてしまうのね……。


「そんなにも消耗する力だったのか」


 優しく声をかけられる。待っていたのは大きな口ではなくて温かな男の人の腕の中。

 あれ、食べられない? そうだ、私……。

 気を失ったんだっけ。それで、何で彼の腕の中に?

 私、婚約者にもこんなことされたことないんですけど。でも、なんだかあったかい――。


「動かないで。いま瘴気が残っていないか調べるから」


 首筋に顔が近付いてくる。息がかかる。いやぁぁぁぁぁ、やっぱり食べる気だぁぁぁぁぁ!!

 初めて父親以外の男の人にくっつかれて私の体はガチガチに固まっている。男の腕の力で抱きしめられているせいもあるだろう。とりあえず、動けない。


「はぁっ、あの……。くすぐったいです」


 ほんと、だめ。くすぐったすぎる。炎のような色の髪だけど、思いのほかサラサラで、それが私の薄い茶色の髪がかかる首すじに触れていく。


「ふぁ……」

「はい、すとーっぷ!!」


 助かった。ルニアが間に入ってくれた。

 危なく、何かが見えそうだったわ。


「おい、大丈夫なのか? ほら、こんなに顔が赤くなって」


 いや、それあなたブレイドのせいですから。


「大丈夫。はい、エマ」


 見覚えのある果物を渡される。すごくデジャブ。これ食べたよね。それで――。

 あれ、全部夢だった?


「エマ様、起きましたか?」


 ぴょこりとこちらを見るシル。あぁ、夢じゃなかった。だって、シルの姿は人間だもの。


「それで、いいか? 王子様」

「……ブレイドだ」

「ブレイド、了承ということでいいだろう?」

「もちろんだ」


 何々? 私、聞いてませんよー。置いていかないで!


「エマ、今日からここで暮らすぞ!」

「……はい?」


 暮らす? 暮らすってどうして? 私達は――。

 そうだ、私帰る場所なんてないんだ。だけど、ここって。


「これから厳しい冬がくる。その前に住む場所を確保しておかないと死ぬぞ?」


 ルニアの目がマジだった。いつも暖かな場所で祈っていた私には冬というものがどれほどなのかわからない。小さい頃に冷たい雪にふれた覚えはあるけれど、寒かったかどうか覚えていない。だって、温かくしてもらっていたから。お父さん、お母さんに。


「あの、住むと言ってもブレイドがなんて言うか」

「だーかーら、さっきから話してるだろ。いいって言ってるんだよ。ブレイドが」

「そうなんですか?」


 ブレイドに聞くと、彼は頷いて答えた。


「恩人に出ていけなんて言うわけがないだろう。必要なだけここにいてくれてかまわない」


 しゃりしゃりと果物にかぶりつきながら私は考えた。

 そっか、やったね! 寝る場所確保!! これで、雨風はしのげるわ!! あとは、着る物と食べ物?

 そうだ、食べ物はどうするんだろう。ずっと、果物ばかりではお腹がすいてしょうがない……。実際、倒れてしまったし。


「って、ちがーう!!」


 急に私が叫んでまわりがびくりと驚いていた。だけどね、食べる事は控えないと。そうよ、私痩せて見返すんだから!! アイツらを!!

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