光と闇の狭間で〜ホスト狂い

東雲三日月

第1話

 ーー光と闇の狭間でーー


 私にはホストに狂った大親友の沖田愛佳おきたまなかがいる。


 愛佳との出会いは青森の田舎から出て来た私が東京の女子大に入学してからのこと。


 女子大に入学早々、女子大の廊下で愛佳とすれ違った時、私は愛佳がすっぴんのような肌が綺麗な薄いナチュラルメイクをしていたので、彼女は清楚な女性なのだろうという印象を強く持った。


 そんな彼女とは、その後、校舎内で二度も出会っていて、二度目は艶やかな長いロングの髪をなびかせながら学校の廊下を意気揚々と歩いてきたところをすれ違ったのを良く覚えている。


 彼女は身長が私と同じくらいなので百六十センチくらいだろうか、何処かの有名モデルさんのように足や腕がスラっとしていて、クビレがあって胸もあり、美人でスタイルが抜群に良くて、女である私でも見惚れてしまう程の容姿だった。


 それに、彼女は年上でイケメンの彼氏持ちという、誰もがお手本にしたいほど羨むような憧れの女性である。


 ところが、そんなある日、彼女と大親友になったのはこの私工藤明日香くどうあすかである。


 私と愛佳は現役の女子大生で、入学したての頃、私はそんな美人でスタイルも良く才色兼備である彼女のことが、廊下をすれ違っただけだというのに記憶に残り忘れられず、こんな綺麗な人が世の中にいるんだと思いつつ、まさか自分何かが彼女とお近付きになるとは思ってもいなかった。


 ところが、田舎者同士ということもあってか、入学早々に行われた親睦会で二人は意気投合することになる。


「まさか私達が同じ一年生だったとは知りませんでした。  それに愛佳さんと同じ青森出身だったことも··········」


「本当それ··········まさか明日香と同じ東北地方、それも二人して青森の出身だったなんてね! すごい偶然じゃん、私何だかとっても嬉しい。  あ、ねぇ、私達友達になろうよ」


「はい、愛佳さん··········」


「ちょっと明日香、愛佳さんってさんすげは止めてよね、それに敬語も··········だって私達同じ学年何だしもう今から友達じゃん」


「そっか、そうだね愛佳!」


 こうして私達は直ぐ意気投合し仲良くなって·····親友になり、最初別々に家を借りて住んでいたのだけれど、今現在は東京で借りた家に二人でシェアしをして暮らしている。


 ある日、学校もバイトも休みの日が重なり、愛佳に誘われて二人きりでカフェに行ったときのことだった。


「あのさ、私達って今は学業優先したいじゃない、レポートだっってやらなきゃいけないから時間だって必要だし、それに、なにより節約生活しないといけないけど、そもそも東京で生活するのってやっぱり家賃が高いと思うんだよね。  だから私達時間作るのと、節約の為にも一緒に住むのが良いんじゃないかって思うんだけど··········どうかな、一緒に住まない!?」


「うん、そうだね、各々家賃払うのって勿体ないかもんね、それより二人で住めばその分家賃も減るし、バイトも掛け持ちしないで済むから時間も作れそうだね」


 こうして私は愛佳からの提案に一つ返事で答え、私が愛佳の家に転がり込む形で

 今のシェア生活に至る。


 ところが、学業優先の私達は、シェア生活になったことで家賃が半分になり、親からの仕送りがあるものの、結局人付き合いも増えてしまっまたからなのか、やはりそれだけでは到底まかなえないので、昼間や夜にコンビニやファミレスでバイトを掛け持ちしてやらなくてはいけないことに変わりはなかった。


 けれど、これがお互い各々生活していたと思うと、もっと支出が増えていたのだから、二人でのシェア生活は良かったのだろう、ところが、何時しか愛佳が突然昼間のバイトを辞めてきて、夜の仕事だけにシフトするようになる。


 それも夜の仕事にシフトしたのは彼氏と別れてからのこと··········。


 彼氏と別れたことで、夜の時間に余裕ができたこともあるだろうし、やはり昼間に働くよりかは時給も高いので、同じ時間働くにしても得られる金額が大分違うのだから効率は良いのかもしれない。


 それに、幾ら親友だからといって、なんの仕事をしているのかまで聞くつもりは無かったのだけれど、ある日愛佳の洋服のポケットから名刺らしきものを発見してしまったのだ。


 わざわざ愛佳の洋服のポケットの中を探ったわけではない、たまたま床に置いてあった上着をハンガーに引っ掛けてあげようと持ち上げた時にポケットから落ちてきたのだ。


 最初に「優香」という文字が大きく書かれているのが目に見に飛び込んできて、その紙を拾い良くみると高級ソープと書かれている名刺だということが分かる。  


 ま、まさかさか、この女の子の名前って……。


(こ、これってもしかして愛佳のこと!?)


 私の勘が働き何だか嫌な予感がしてきて、発見した名刺を持つ右手が急にブルブルと震え出すのが分かる。


(どうしよう、一応確認した方がよいかな……)


 大学生とはいえ、収入を得る為に風俗をしている子は案外多く、私の学校の友達にも数人夜の仕事をしている子を知っていた。


 でも、だからといって愛佳は私とシェアしている身の程、家賃だって折半しているのに何でそんなにお金が必要だと言うのだろうか?


 一緒に暮らしているというのに、愛佳のことが良くわからなないからこそ、何にお金を使っているのか使い方が不明な点があることが不思議で、不安で仕方の無い私。


(まさか、借金とかしてるの?)


 大親友だからこそ、家族のように一緒にシェア生活しているからこそ、黙ったまま見過ごすわけにはいない、信じているはずなのに深夜遅くに帰宅した愛佳に、私は勇気を出して問い詰める。


「あ、あのさ、これなんだけど··········」


 私は手にしていた名刺を愛佳の目の前に恐る恐る差し出す。


「ああ、これね、なーんだもう明日香気付いちゃったんだ。  これね、私の名刺なの、今ここのお店でソープ嬢してるんだよ」


 愛佳は名刺を目にすると、夜の仕事が悪いことだとはと思わないのか、ペラペラ喋りだした。


「な、何で愛佳は昼間のバイト辞めてここで働いてるの?  生活するのにお金必要なのはわかるけど、そんなにお金が必要だっけ?」


 この質問に答えてくれるのかドキドキしながら愛佳に聞く。


「んー、それがさ、明日香も知っての通り、私、大分前に彼氏と別れてるじゃん、でも明日香には言ってなかったんだけど、今になって新しい彼氏が出来たんだよね。 それで今はその彼氏のこと応援してるからさ··········」


 淡々と話す愛佳だけど、その愛佳の口から出てくる彼氏というのが何だか物凄く引っかかる。


(彼氏を応援する為にお金が必要!?)


 暫く考え込んでいると、勘の良い私は、あることに勘づいてしまった。


 そう、その愛佳が言っていた「彼氏」というのが本当の彼氏ではなくホストだと言う事に!!


 それから愛佳に対して何も言葉が出なかった。


 ホストのことを彼氏と呼ぶという事は、もう彼女はホスト狂いしているのだろう。


 ホストに通っていることすら気付けなかった自分にも責任があるのだと思うと、悲しくて、悔しくて··········いたたまれない気持ちになった私はとても複雑な心境になっていた。


 でも、だからといって、もし今ここで、私が愛佳を責めたて立ててしまったら、家出するかもしれないし、自殺をして死んでしまうかもしれない··········そう思ったらやっぱり心配だからこそ、愛佳を前にして何も言えなくなってしまったなである。


「そっか、愛佳お仕事無理しないでね」


 私は彼女の身体を気遣う言葉しかその時は言え無かった。


 ホストにハマる子は多いと聞く、そして、ホストにハマり風俗をやる子も多い。

 

 このままじゃホストの為に生きてしまい、身も心もボロボロになるのが落なのが目に見えているきがした。


 愛佳はホストにハマり、お金が必要になって風俗の仕事に就いたのだろう··········もう完全に沼っている。


 そんな愛佳に、私はホスト行かないで欲しいと心の底から願っているし、どうにか止めさせたいと思っているけれど、ホスト狂いの愛佳に「行くの止めて!」というのは、愛佳からしたら「死ね!」って言われてるくらい辛いことに違いないだろう。


 私はあれこれ頭の中で考えていたら、愛佳の為にこれから自分がどうしたら良いのか分からなくなってしまっていた。


 もし風俗を辞めさてたとしても、お金が必要なのは変わりないのでヤミ金に手を付けてしまうかもしれない··········等、色々考えてしまうからだ。


 お陰で、布団の中にいるのに目を瞑ってもちっとも眠れないまま朝を迎えることに。


 ぼんやりとして眠気があり身体がふらふらしてるであろう状態のまま学校に行くと、私は別の友達真下香織ましたかおりに相談してみることにした。


「ねえ、かおりん、愛佳のことなんだけどちょっと相談いいかな」


「うん、良いよ! 最近学校休みがちになってるもんね、私もどうしたのかなって気にはなってたんだよ。 それより、明日香は大丈夫?」


 かおりんは、私の顔が普段より色白になっているのを見て心配してくれたようだ。


「何とかね、愛佳のことで昨夜は眠れなかったんだよ!」


「そうだったんだ、今日は無理したら駄目だよ。  で、相談てのは!?」


「うん、かおりんありがとう」


 この際だから、洗いざらい話すことにした。


「そっか、愛佳がホスト狂いとはね··········」


「うん、私はホストも風俗も良くないと思ってて、愛佳に止めさせたいんだよね」


「それは難しいかもね、ホストって、基本的にあげて、あげて落とすの、その人のコンプレックスな部分を褒めちぎって心を満たしてくれる」


「心を満たすかぁ··········かおりん詳しいね」


「仲の良い親戚のお兄ちゃんがホストしてるんだよ」


「成程、それで色々知ってるんだね」


 良かった!  あまりにも詳しく言うから、かおりんがホスト通いでもしてるじゃないのかと思ってしまったじゃないか。


 その後も、かおりんは色々教えてくれた。


 こんなこと言うのはあれだけど、ホストの狙いは金蔓でもあるお客を自分に依存させること··········ある程度甘い言葉を言い続けた後、突然それを止めて何もしなくなることで心が満たされていたのを寂しくさせるのだという、そして相手が寂しくなって恋しくなり、またホストに褒められたい、また甘い言葉を囁いて貰いたい、また話を聞いてもらいたいという感情になり、止められなくなるということまで。


「そっか、それじゃ、ホスト通いを止めさせるのって相当難しいね。  何だかこれってマインドコントロールみたいで宗教みたいじゃん」


「そうかもね、明日香ちゃんが愛佳のこと思う気持ちは凄い良く分かるけど、やっぱりこればっかりは本人の意思もあるから難しいかもね」


「かおりん、何か良い方法はないのかな」


「愛佳本人がホストのことを彼氏っていってる以上縁を切らせるって難しいよ。  ホストってさ、本気で普通の男の人と付き合うよりすっごい楽じゃん、大体の我儘は聞いてくれるし、腹立つことは一切言わないし、なにより話を聞いてくれるんだもの」


「そ、そうだよね··········」


「そもそも愛佳ちゃんには彼氏がいたけど、別れちゃったんでしょ、才色兼備の彼女からしたら相当なダメージで辛かったんじゃない。  だからさ、満たされない気持ちを埋めつくしてたのがホストだったんじゃないかな!」


(満たされない気持ち··········ね··········)


··········愛佳はああ見えて、彼氏と別れてから立ち直れてはいなかったようだ。


「法でどうにか出来るんだったら良いけど、そうもいかないしね」


「うん、そうだねかおりん」


「だから、明日香は愛佳のことが心配だろうけどほっとけば良いと思う、多分今の現状から戻ってきた時、愛佳はお金のことで後悔するかもしれないけど、あの時ホストが支えてくれたからやってこれたんだって心の後悔しないんじゃないかな」


「ふーん、心の後悔はない··········なるほどね」


 今までホストが悪でしかないと思っていたけど、それだけじゃないことを知った私。


  満たされない心を私が代わりに埋めてあげたくてもそれは無理だと思った。


 かおりんのお陰で心のモヤモヤが解消された気がする。


 その後、私は愛佳とのシェア生活を解消した。


 一緒に暮らしていたら、私は色々余計なことを言ってしまいそうだからだ。


 愛佳とは連絡を取っていて、彼女と学校で会えばいつも通り変わらずに話をする。


 話を聞く限り、ホスト狂いも夜の仕事もまだ今のところ続いている様子だけど、私が愛佳の親友だということに違いは無い。


 だから一親友として、これからも愛佳のことを見守って行こうと思います。



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