第6話 暗記は苦痛ですが、魔道具を作るのは得意です!

 呪文の暗記・暗唱が義務付けられてしまい、四苦八苦しています。

 神様の名前を間違えるのはアウトだし、詠唱の途中で噛むと不発になる。

 ちょっとした言い間違えで、威力が半減する鬼畜仕様。

 レイヴァンが私は脳筋だから、威力の高い魔法を実践で見せればイメージし易いのではないかと公爵様に進言したようで、今は魔物討伐部隊の衛生兵(仮)として従事していたりする。

 お手本となるのは、副団長のロゼット女傑。この国では珍しい魔法剣士なんだそうだ。

 前衛は勿論、広範囲魔法もぶっ放せる女傑に団員一同頭が上がらないともっぱらの噂。

 最初は「この女を連れて魔物狩り。正気ですか?」と難色を示されたが、私の魔法を見て掌を速攻で180度回転させた強者である。

「これほど、サクサク進むとは思わなかったわ。貴方、本当に成績最下位者なの?」

 ロゼットに問われ、私は苦笑いを浮かべて答える。

「呪文の暗記が苦手なんですよぅ。ほら、学園の試験基準って、発動は勿論のことで正しく詠唱出来ているかまで厳しくチェックされるんで。点が取れないんですよー」

「ああ……、確かにそういうところがあるわね。適正の低い魔法を間違えずに詠唱出来れば、初級魔法でも中級くらいの威力が出せるじゃない。こればかりは、暗記するしかないね」

と返されてしまった。

 それが出来れば、苦労はしていない。

 ロゼットの魔法は、確かにお手本になる。

 威力もあるし、広範囲の殲滅魔法から単体に威力を絞った魔法まで多彩だ。

 見ている分には、イメージの参考になるので助かってはいる。

 しかし、暗記が苦手な私と長い詠唱文は相性が最悪なのである。

「魔物の間引きとのことですが、これだけの数の魔物の死骸を持ち帰るのは難しいと思います」

 空間魔法アイテムボックスやアイテムバックなんて便利なものがあれば可能だろうが、持っている人間は一握りしかいない。

「焼き払う。そうしないと、血の匂いに釣られて魔物が寄って来てしまう」

 ロゼットの言う事は最もだが、私の勿体ない精神が疼く。

 空間魔法アイテムボックスが作り出せれば一番良いが、空間系統魔術は専門外である。

 しかし、アイテムバッグならイメージがし易いので作れなくはない。

 某ネコ型ロボットの狸の腹についていた四次元ポケットである。

「無いのなら作ってしまおうホトトギス」

 魔獣の死骸から革を剥ぎ取り、魔法で巨大な水球を作り削った石鹸を投入。

 洗濯機を思い浮かべながら、高速でグルグルと革を洗う。

 水の色が変われば同じことを繰り返して、透明な水の状態になった所で革だけ取り出して水球は遠くへ飛ばした。

 このくらいなら環境破壊にもならないだろう。

 火と風魔法を組み合わせて温風を作り乾かしている間に、屍となった魔物の心臓部をかっぴらいて魔石を取り出した。

 殆どの魔石はクズ石と呼ばれており、使い道が限られている。前世で例えるなら使い捨て電池の劣化版だろうか。

「ロゼット様、この死骸貰っても良いですか?」

「構わないが、何をするつもりだ?」

「燃やして灰にするくらいなら、魔石だけでも有効活用しようかと思いまして」

 ナイフを片手にザクザクと肉を切って魔石を取り出す。

 途中ナイフの切れ味が悪くなったので、魔法で即席研ぎ石を作って刃を研いでは魔石を取り出す行為を繰り返した。

 革も良い感じに乾いたので、取り出した魔石を綺麗に洗って風魔法で真空状態を作り、粉になるまで闇魔法の重力魔法で魔石を圧縮する。

 温水に魔石の粉末を溶かし、温水が魔石の色に染まったのを確認して漸く下準備が出来た。

 適当に拾った木の枝を水で綺麗に清めて、魔物の革に魔法陣を描いて行く。

 言語は、全て日本語で書かれてあるから読める者はいないだろう。

 後は、針と糸でチクチクと縫ってナップサックにするだけでマジックバックの完成だ。

「貴様は、一体何をしているのだ?」

「折角狩った魔物を燃やすのは勿体ないかと思いまして、マジックバックを作ってみました。やっぱり同じ種族の革と魔石なら拒絶反応が出なくて良いですね! 持つ人間の魔力に比例して入る容量も変わる仕様です。今のところ、私しか使えませんけど」

 重力軽減・時間遅速・所有者制限・追跡の機能が付いている。

 盗難にあって素材がパーになったら、元も子もないもんね。

「閣下から聞いていたが、その場にあるもので魔術具を作るとは……。魔法陣に何と書かれているかさっぱり分からないが、本当にマジックバックを作れたとしたら規格外な存在だぞ。これは、色んな場所から声が掛かりそうだ」

 頭が痛いと言わんばかりに顔を顰めるロゼットに対し、私は首を傾げる。

「それは、無いと思います。私、興味のない事に関しては記憶が綺麗さっぱり無くなってますので!! 後、マナーも不十分ですよ? 5年は宮勤めしますけど、その後は実家に戻って魔術具師になって細々と暮らす予定です」

 キリッと将来の展望を語ったら、無言で頭を叩かれた。

「マナーがポンコツでも、相性の良い魔法なら高火力を叩き出せる逸材を国が手放すわけないだろう! それに、その辺にあるもので魔道具を作る馬鹿がどこにいる!!」

「え? 此処にいますけど。魔道具師ならくいっぱぐれる事もないので、宮勤めで不敬罪でポカやらかす前に退職したいです。目指せ職業婦人ですよ! 今の世の中、女性も働きに出る時代です」

 渾身のプレゼンは、ロゼットに思いっきり頬を引っ張られて強制終了させられた。

 作ったマジックバックに、灰になる予定だった魔物を片っ端から収納して、それから1週間ほど遠征してから公爵邸へと戻った。

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