第4話 言い訳あります!

 指輪・ネックレス・ブローチの3点セットをつけて、制服メイド服を身に纏っていたらマーサにと見咎められました。

「使用人が、貴金属を身に着ける必要はありません。今すぐ外しなさい」

 ですよねー。言われると思ってましたとも。

 でも、ちゃんと言い訳も考えてあるのですよ。

「これは、れっきとした魔道具です! 貴金属に見えるだけです。それに、レディースメイドは主を立てる花である自覚を持つために、ある程度のお洒落が許されています。規則に『職務中に貴金属を身に着けてはならない』とは契約書に書かれてありませんでした。このまま身に着けても問題ありません」

「常識で考えなさい」

「お言葉ですがマーサ様、あいにく常識に疎くて色々やらかし今ここにいるんです、私。先程申した通り、これらはれっきとした魔道具なのです。まずはブローチ、これは人の知能を模倣した魔術が組み込まれています。次にネックレス、これは映像や音声・静止画を記録するものです。そして、指輪はその二つを連結することで情報を瞬時に検索してくれるアイテムです。こんな風に……お題は、マリア様の好みのお茶の入れ方で」

 実際やってみせるのが手っ取り早かろうと、魔術具を操作するとブオンッとウィンドウ画面とキーボードが表示される。

 検索バーに『マリア 好みのお茶 入れ方 冬曙ふゆあけぼの』と入力し、検索をかけるといくつかヒットした。

 今日は一段と寒いので、紅茶キームーンに蜂蜜を添えて出すのが良いと提案したら大当たりだった。

 解せないという顔をされたが、魔道具の有用性は分かってくれたようだ。

「マリア様から貴方の学業成績は下から数えた方が早いと伺っておりましたが、魔術具を作る才能はあるのですね。原理を聞かせて貰えますか?」

「私、馬鹿だから覚えるのが苦手なんですよね。その補助を魔法でできないかと思って弄繰り回したら、いつの間にか勝手に完成してました。情報が膨大になれば、成長するのでより正確で速い回答が出来ます。素材が良ければ、他の使い道も出来る代物も作れるかもしれません」

 前半は本当だが、後半は大嘘です。

 前世で作った検索エンジンを基礎にして、作ったからね。

 学校から貸与された魔具の万年筆がなかったら、完成してなかった。インクは自分の魔力だから、書き損じしても自分の意志で消せるし、他人が消そうとしても消えない特殊な万年筆に今生で一番の感激を覚えたよ。

「……リリーさんは、感覚特化型の魔法使いなのですね。確かに、一晩で作り上げた魔術具はとても素晴らしい物です。それは、他の方でも使えますか?」

「私用にカスタマイズいたものなので無理です。材料さえあれば、同じ用途の物を作ることは可能です」

 そう答えると、マーサはふむと頷き少しの沈黙の後で私に言った。

「貴方の教育方針について旦那様と相談することができました。本日の侍女業務はお休みとし、旦那様と面談して頂きます」

 何か大事になった気もするが、仕事をサボれるならラッキー!

 私は、二つ返事で了承した。



 公爵様が食事を終えられ、食後のティータイムに私はマーサと執事長サナエル・レイヴァンと共に公爵の前に連れてこられた。

「マーサから貴様が、面白い魔術具を作ったと報告が上がって来た。一体どんなものを作ったのか見せよ」

 私は、指輪に魔力を込める。

 ブオンッと検索バーの画面とキーボードが表示された。

「奇怪なものが現れたが、これをどうするのだ?」

「これは、蓄積した情報を検索する魔術具です。この部分に調べたい単語を入力すると、該当するものが表示されます。今は、マーサ様に教わった内容しか調べられません」

 試しに、『マリア 昨日の装い』と入力すると検索結果の一覧が表示された。

 アフタヌーンドレス・イブニングドレス・ナイトドレス・制服がヒットした。

 何時何分にどのドレスを纏ったのか、その時に身に着けていたアクセサリーや髪型、行動まで事細かに書かれている。

 画像と動画付きなので、その場で見せて良い物か迷った。

「あのー、お嬢様のお着替え中の姿が映像と画像どちらも見れますが見ますか?」

 一応、確認してみたら目をカッと見開かれたかと思うと怒られた。

「何でそんなものがある!!」

「報告された通り、ネックレスが記録媒体・指輪が検索機能・ブローチがの二つを補助する道具となってます。単体では、使えません」

 手元の素材で作れるものを作っただけなのに、何故怒られねばならぬのか。解せぬ。

「……マーサ、こやつの言っていることは本当か?」

「はい。私もこの目で確認致しました。嘘は吐いておりません」

 ドッと疲れたと言わんばかりに、椅子の背もたれに身体を預けている公爵様。

 何だか釈然としないが、反抗的な態度をとって首と胴体がおさらばになるのは勘弁だ。

「なあ、レイヴァンよ。こやつは、学園の成績は下から数えた方が早いと報告があった。間違いではないのか?」

「いえ、間違いではありません。算術の成績だけは、軒並み良かったと記憶しています。筆記も実技も底辺を彷徨ってます」

「だよなぁ。何故、そんな奴が高度な魔術具を作れるんだ?」

 心底納得できないと言わんばかりの顔をされ、私は適当な理由をでっち上げることにした。

「長ったらしい呪文を唱えなくても、イメージできれば魔法は使えます。しかし、筆記テストは教科書通りの回答で正解となります。実技は、詠唱を省くと減点になります。威力を落とさないためにも、詠唱は必須と言われ続けてきました。他の授業は興味が無いので、勉強を怠ってました」

 私の回答に、三人はガックリと肩を落としている。

「マーサ、最優先事項としてコレに卒業できるだけの最低限の学を身に着けさせてくれ」

「宜しいのですか?」

「これだけ高度な魔術具が作れる者は、そうそう居ない。無詠唱で魔法がどれだけ使えるかも確認したい。練習場を使ってよい。レイヴァンとマーサが、詠唱なしと詠唱ありで行使される魔術効果の違いを報告するように。マナーは、卒業してから参内するまでに間に合えば良い。間に合わなければ、監視風よけを着けさせる」

 うへぁ、面倒臭いことになってきたぞ。

 公爵の決定に、私は心の中で大きな溜息を吐いた。

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