色褪せた魔法と、最後の魔法使い

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

占いの館


退屈だ。


ここ最近

オレを取り巻く全てが退屈で

決して代わり映えせず普遍的だ。


占いの館

なんてもんを開いて

繁盛させたは良いものの

存外つまんねえものだった。


女だってことと

顔がいいって理由から

男どもが集まってくるので

客に困ることは一度もなかった。


だが


「——お、お、おれの

将来のカミさんを見てくれ!」


現実はこれだ

どいつもこいつも

似たような願いばっかり。


んなもん気になんのかよ?

正直オレはそう思っている。


それくらい

てめぇで見つけやがれ


自分の嫁なんぞ心にビビッときた奴を

血吐くぐらい口説きまくって捕まえんだよ。


などと

心の中で悪態をつきながら。


「おうよ、少し待ってろ」


オレは水晶——あくまで見せかけだが——に

手をかざして適当にコネコネ動かす。


「おお……そうすりゃ

将来のカミさんが分かんのか?」


「うるせぇな黙ってろ

燃やして溶かして唇くっつけんぞ」


こっちは集中してんだよ

見たらわかんだろクソが

と思いギリっと睨みつけてやる



「悪い悪い」


まあ、オレも随分長いこと

この街でこの商売をしてるもんだから

オレがこういう奴だってのは知れ渡ってる


だからここに来るのは


それを承知で

それでも良いってんで

やってきてるような連中だ。


こんな程度でビビりゃしねえ

それが余計に退屈だと思わせる。


オレは頬杖つきながら

その男の運命を覗き見ていく


水晶なんて本当にただの飾りだ

ただ、何かしてる風に見えれば

それ以上詮索はされねぇだろって事で


路地裏の怪しいババアが売ってた

安モン紛いもんぼったくりの水晶を

適当に見繕って使っている。


なので

本当はこうして

ちょっと集中するだけで

仕事はできるんだ。


は数秒で終わった

そう大変なものでもない


ただ代償として

少し肩がこるくらいだ。


オレはたった今

自分が見たものをそのまま

なんの配慮も遠慮もせずに


その辺に放り投げるみたいに

客の男に未来を教えてやる。


「金髪、顔は普通、歳下

出会いは三年後……そんなとこだな」


「——ほ、本当か?」


「とっとと金払って失せろ


ああそれと


もしそん時はてめえ大事にしてやれよ

じゃねえと家と愛犬が燃える事になる」


冗談では無い本気だ

もしチラッとでもそんな噂が

オレの耳に入りでもしたらその時は


やる


「……あ、ありがとう……!

ありがとうよ……!」


男は


分かってんだか分かってないんだか

涙を流して感謝の言葉を垂れ流す

壊れた機械みてえになりやがった


鬱陶しいやかましい

暑苦しい声がでけぇ


男は何度も頭を下げながら

占いの館から出てこうとする


それを見て声をかける

最後にひとつ忠告があるのだ。


「おい」


「は、はい」


「もし`大事な話があるの`って言われたら


例えお前がその時

片腕もがれて死にかけでも

人生を左右する大切な予定があっても


その全てをかなぐり捨てて

嫁んとこに居てやれ」


「……!あ、ああ……!

何から何までありがとう!」


その言葉を残して

客は幕の向こう側に消えていった。


「……クソつまんねぇ人生だぜ」


一人になったテントの中で

オレは愚痴をこぼす。


オレがさっき見た客の

運命についての感想だ。


「オレの忠告があったとしても

アイツは多分間違えんだろうな」


男の性格を考えれば

きっとそうなるはずだ。


アイツは嫁から

`大事な話があるの`と言われた時

`どうしても今日は無理なんだ`と返す。


そこが

破滅への分岐点になる。


あいつの将来の嫁は

故郷で人を殺して逃げてきた犯罪者なんだ。


事情を聞けば誰も

女のしたことは責めないだろう

そうなって然るべき状況だったからだ。


だから女は

それを打ち明けようとするのだが


あの男は都合が悪いからと

後回しにしちまう


その結果

女は家で男の帰りを待っている時に


自分が殺した人間の縁者が

家に押し入ってきて


降り積もる怨嗟から

女の体をバラバラに解体する。


そして用事を終えて

家に帰ってきたアイツは

その惨状を目にして


ショックと後悔のあまり

自らも後を追うのだ。


だがもしあの時

話を聞いてやっていれば

その未来は回避される。


そこが分岐点となるんだ

もし男が話を聞いてやっていれば


街にやって来た復讐者は

持病の心臓発作が起きて死亡し

最悪の未来は起きない。


何の因果関係も無いように思えるが

得てして運命とはそういうもんなんだ。


そう


運命だ


通常の占いでは

ここまで詳細なことは分からない


あれはどっちかというと

暗示的な意味合いが強いからな


だから


オレのやっていることは

決して占いなんかではない

そんな次元の話じゃねえんだ。


オレがやったのは

運命を覗き見る行為


正真正銘の

オレは魔法使いだった。


魔法使いとは

人々から忌避され

また迫害されるもの


理解のできない

得体の知れない

人間の恐怖の対象


追われ殺され排除され

とうの昔に滅び去ったモノ


このオレ


マチルダ=ショットは

世界最後の魔法使いなのだ。


「——あの、すみません」


カーテンが開かれ

オドオドした様子の女が現れた

こいつもどうせ恋愛相談だろうな


「……早くそこ座りやがれ


んで注文を言え、五秒以内だ

さもねえと八つ裂きにしてやる」


「は、はぃぃぃ!」


「え、えっと、その

私の仕事運について——」


オレは今日も今日とて

この街で占いの館を開いている。


人々は

オレを魔法使いだと知らねえ


もしそれがバレたら

血が流れるだろう


無論流れる血は

オレのもんじゃねえが


隠れ蓑であり退屈しのぎ

そして生活費稼ぎでもある

それがこの商売をやっている目的だった。


人の運命を覗き見る

それ何も親切じゃねえ


何か面白いもんが

ありはしないかという

ちっぽけな希望に縋る行為


このクソみてえな毎日に

救いあれというオレの願い


まあ


もっとも


「……あ、あの……最後に……

私の運命の人を……その……」


「てめえにはそんな奴居ねえよ

諦めて仕事探せ、親孝行しろ」


「……そんな」


絶賛退屈中なんだがな——。


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