エピローグ 1
「先ほどは助かった」
イグナシオは、部屋に戻りなぜかついて来たピュラーアに言った。
『どの事でしょうか?』
「まあ全部かな?」
ピュラーアが姿を現し、『なかなかの野心』と言われなければ、オーガスの命令で動いているだけだと、彼の本当の目的に気づかなかっただろう。
オーガスに、クレイが王座を狙って乗り込んで来たと聞いたパレルモが、命令通りクレイを阻止し、ついでに聖女であるランゼーヌを手に入れる。
彼は、オーガスの側近の一人だった。ただ雑用がほとんどで、王宮で見掛けた事はなかったので、気づかなかったのだ。
まさか、オーガスが彼を送り込んだとは思わずにいた。
「彼は、私とクレイが共犯だと本当に思っていたようですね」
疲れた表情でアルデンが言うと、そうだなとイグナシオが頷く。
今回呪いの箱庭が消滅し精霊樹が出現した事で、クレイと手を組みアルデンも功績を上げようとしていると、パレルモは思ったのだ。
そして、聖女を廃止するような事を言い出した為に、パレルモは早急に動かなくてはいけなくなった。
クレイと婚約しているのなら早めに破棄させ、自分と婚約させる。
クレイが王家の血を引く者だとランゼーヌが知ったとしても、謀反を企てた者として捕らえられるなら自分につくだろうと考えていた。だからこそ、落とし胤だと言ったのだ。
アルデン達は、クレイの出生の秘密が暴露されるのではと焦っていたが、ピュラーアが『戯言』だと言った事により、クレイの父親の件はうやむやになった。
『クレイは、どうするのでしょうね』
「なぜか、楽しそうですね」
うんざりして、アルデンが言う。
「彼も気づいたのではありませんか? 父親が誰か」
その言葉を聞いて背もたれに預けていた上半身をガバッと起こしたアルデンは、ピュラーアを凝視する。
「あなたは気づいていましたね。彼が王家の血を引く者だと」
ピュラーアは呪いを持つ者を把握できる。つまりクレイが王家の血を継いでいるのを結界が解けてすぐに知ったはずだ。なので、戯言ではないとわかっていての発言。
『だとしたらなんです』
「あなたは、誰の為に動いているのですか?」
『誰とは?』
「ですから目的は何ですかとお聞きしています。あなたの発言は、変な話、私達より信頼があるのです。あの場で、私たちが違うと言うよりもあなたが言った方が、彼らは信じたでしょう。それをわかっていて、あの場で言ったのですよね? なぜですか」
「わかっていたのか……」
アルデンの言葉に、そういえばそうだとイグナシオも頷く。
『あなたに興味を持ったからです。人間の言葉で言えば、貸しを作ったというところでしょうか』
「わ、私に興味ですって!」
アルデンは、面白いほど動揺をみせた。
『そこまで驚くとは』
「私のどこに興味を持つところがございますでしょうか」
『そうですね。彼への忠誠心や本性を出さないところでしょうか』
「………」
「ほう。私への忠誠心か」
「陛下、からかうのはやめてください。私に貸しを作っても仕方がないでしょう。あなたに返す宛てはありません」
『あなたになら力を貸すと言ってもですか?』
「何ですって!?」
「精霊の考える事はわからないな。利用されたいと言うのか」
「利用も何も……私は、枢機卿の地位から離れる為に今回、聖女を廃止するのですよ。それなのに、あなたの力を手に入れてしまったら意味がないではありませんか」
『そこまでして、安心させたいのですか? 全く裏がないと』
「当たり前です。もし王の座を狙っているというのなら、すでに手にしています」
「おい。恐ろしい事を言うな」
「いくらでもチャンスはあったと申しているのです。というか、その気ならあの話を聞いた時に作戦を練っているでしょう、普通は。それにもう、聖女は現れないのではないですか?」
『そうですね。その必要はないですから』
「なんだと!?」
「やはりそうですか」
聖女システムを考えたのは、ピュラーアだ。呪いを浄化するシステム。もっと言えば、精霊樹を守る為のシステムだ。そのシステムも結界が解かれた今、必要ないものとなった。
「しかし、貴族の中にも反対している者がいる。聖女の廃止は考え直せと」
「精霊の儀を続けれと? 聖女がもう現れないとわかっているのにですか?」
「そうなのだが。聖女を廃止すると、色々と問題がある。職をなくす者がかなりいるのだが、どうするのだ?」
「今使っている祈りの間を解放し、聖女に関係なく祈ってもらうのです」
「いやそれって、無意味じゃないのか」
「何の効果もありませんが、意味はあります。そこに司祭や騎士を派遣します。再就職先です」
「半分も就職できないと思うが……」
「仕方がないでしょう。無意味に続けるより、変えられる時に変えた方がいいのですから。それに、聖女が現れないのですから、五年後には聖女はいなくなります」
「そうだな……」
二人は、しれっと二人の会話を聞いているピュラーアを見た。お前のせいだと、二人は見つめる。
『何か言いたげですね。そのまま告げてはいかかですか? 聖女はもう出現しないと』
「私は、遠回しにそう宣言したのですが、信じて頂けていないから困っているのですが」
『信じてもらえれば、解決するのですか』
「少なくとも貴族からの抗議は収まるでしょう。失業者が出るのは致し方ありません。信じて頂ければ、不服でも聖女廃止は仕方がないとなります」
「そうだな。このままだと謀反を企てる者が出るかもしれないな」
『わかりました。協力を致しましょう』
アルデンは、宜しくお願いしますとピュラーアに笑みを向けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます