第32話 呪いの箱庭の真実 3

 (聞こえますか? ピュラーア様)


 意を決して、心の中でランゼーヌは話しかけた。


 『えぇ。声が届きました。ありがとう、ランゼーヌ。私は、精霊の王、ピュラーア。あなたを通して人間にお伝えしたい事があり、この様な方法を取らせていただきました』

 (その事を聞く前に、私から質問があります)

 『何でしょう』

 (なぜ私なのでしょうか?)


 至極普通の疑問。なぜ本当の聖女と会話をしなかったのか。精霊なら聖女の方がいいのではないか。ピュラーアが本当は、精霊ではないから聖女と会話できないのではないか。

 ランゼーヌは、相手の言葉を待った。


 『あなたが精霊の言葉を聞く事が出来るからです』

 (聞くことが出来る?)

 『現にあなたの傍にいるワンと意思の疎通が可能でしょう? 他の人間にはできないのです』


 ワンちゃんと幼い時から普通に話していたので当たり前だったが、他の人が話せないのも理解していた。話せないところか、見えてもいない。

 だが、ランゼーヌにとって、ワンちゃんとの会話は特別な事ではなかった。けど特別だったのだ。


 (わかっているようで、わかってなかったのね、私)

 『ワンは、精霊の中でも上位精霊で、あなたに名前を付けてもらった事により次の王になる事が決定したのです』

 (え!?)

 「ランゼーヌ様、大丈夫ですか?」


 驚いたランゼーヌは、声こそ出さなかったが体がビクッと反応したので、クレイが心配し声をかけた。

 大丈夫だと、ランゼーヌは頷く。


 (ワンちゃんが、精霊王になるって事ですか?)


 本当だろうか? 王になれるとワンちゃんが唆されているのではないか。そうランゼーヌは、疑う。


 『嘘だと疑っているのでしょうが本当です。ただ、あなたが生きている間にワンが精霊王になる事はまずないでしょう。しかし、このままだと不完全な王になってしまうのです』

 (不完全?)

 『人間と違い精霊は、王になる素質がある精霊に、王の証である精魂ルポを引き継がなければならないのです。そこには、この世界の記憶――歴史が詰まっています』

 (記憶? それがないと不完全になると?)

 『はい。精霊王がするのは、この世界の存続。これは人間でいう存続と違い、世界を破滅させない為の存続なのです』

 (………)

 『精魂を受け継いだ精霊は、この世界が破滅しないようにその精魂を使い世界を導きます。ですが今、私が出来る事は制限されている。そして、この時間ときを止める結界がある為、私はワンに精魂を渡す事もここから動く事もできないのです』

 (なるほど……)


 こんな話を聞けば、結界を解かなければいけないと思うはずだとランゼーヌは納得する。

 ワンちゃんは、自分が次期精霊王だと聞き、それを信じた。そして、完全なる王になる為には結界を解くのが不可欠。そうなれば、そうしようとするだろう。


 (話はわかりました。ですが、疑問があります。なぜあなたはそこに封じ●●られたのでしょうか?)


 そう結界の中に封じられているのだ。普通は、悪いモノが封じられるだろう。もしピュラーアが聖なるモノだとすれば、悪なるモノに封じられた事になる。


 『そうですね。信用して頂くのには話した方がよさそうですね。人間に伝わる奇術師のお話をご存じですか?』

 (はい。あなたがいるまさにその結界の中に封じられていると聞きました)

 『ですね。では、そうなった経緯は知っておりますか?』


 わざとあなたが奇術師だと遠回しに言ったのに、全く動じる事がない事にランゼーヌは内心動揺した。

 ランゼーヌが全く、ピュラーアを信用していないとわかって話している。心していなければ、もしかしたら信じた途端、乗っ取られるかもしれない。


 (確か奇術師が嫉妬して世界を呪おうとしたとか……)

 『やはり時間が経つと少し違って伝わる様ですね』

 (違うと言うのですか?)

 『はい。少し長くなりますが、最後まで聞いて頂けますか?』

 (わかりました)


 ランゼーヌは、ごくりと唾を飲み込んだ。

 ピュラーアは、自身が封じ込められた経緯を話し始めた。


 ――その昔、この国と隣国は戦争をしていたが、リダージリ国が勝利し平和条約を結んだ際に、婿をつまり王子を向かい入れた。隣国にすれば、人質だ。

 昔は、女性が王を務める国だった。

 迎い入れた王子は、元々戦争に反対していて自分が行く事によって事が収まるならと、素直に応じて平和が訪れたかのように思えたが、子が生まれると恐ろしい事が起こる。

 それは、密かに王子に掛けられた呪いが発動したのだ。

 まさか自分に呪いを掛けて、他国に婿に出すなど思っていなかった彼は思い悩む。その呪いは、生まれた子供が泣くと、周りに呪いが広がるという恐ろしいモノだった。

 それに気が付いたのが、ピュラーアだ。

 その時代のリダージリ国の女王は、精霊の言葉が聞けてその事を知る事ができた。

 隣国の目的は、精霊樹だろう。女王がそこから力を受けていると、思われていたからだ。

 実際は、精霊王がそこに住まい、彼女に助言をしていた。

 ピュラーアは、一つ提案をする。彼の力でこの精霊樹の周りに結界を張る事と、聖女を選び呪いを浄化する事だ。

 隣国には、結界の能力を持つ者が生まれる事があったのだが、彼がそうだとは気づかれていなかった。なぜなら時間ときを止める結界だったからだ。今までにない効果の結界だった為、気づかれなかった。

 精霊樹の周りをその結界で囲う事により、呪いの進行を止める。そうすれば、子を殺さずにすむとピュラーアは言った。

 その代わり、精霊が力を発揮できるマナを持つ聖女を選び、その者に祈るという形で精霊にマナを与え呪いを浄化する方法だ。そう呪いを浄化しているのは、力を得た精霊だった。

 子が泣かなければ、呪いが広がる事もない。ただ、呪いは子々孫々続くだろうと言われた。なので、ずっと続ける必要がある。

 しかし、国民には呪いの原因を告げる事はできない。告げてしまえば、子は殺される。そして、また戦争が起こるだろう。自分が死ぬのは構わないが、平和の為に来たというのに、自分が火種になるのは嫌だった。

 女王は、ピュラーアの提案を受け入れる決断をする。

 そして、マナを引き出す精霊の像を造り、各場所へ配置して最初の聖女選びを始めた。

 女王の夫は、償いとばかりに自分の命と引き換えに強力な結界を張った。その効果は絶大で、そこだけはそれ以上呪われる事はなく段々と呪いが薄れる中、逆にそこだけに呪いが残ってしまったのだ。と言っても、結界が解ければすぐに消滅する程度の呪いだが。

 ほとんど呪いの影響を受けなくなったが、精霊の声を聞く者が生まれず時間ときが流れ現在に至る。


 『やっと私の声が聞こえる者が現れたというわけです』


 ランゼーヌは、つじつまは合うと思うが信用はできなかった。

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