第21話 歓迎されているのかいないのか2
次の日の昼過ぎに約束通りバローニが三人を迎えに来た。
「わあ、凄い馬車ですね」
精霊の儀に乗った馬車は、二人しか乗らないからとこじんまりとした馬車だったのに対し、乗る者が二人増え四人になったとはいえ、ゴージャスで大きい。今回は、御者もいる。
「なんだか目に見えて、待遇が違いますね」
「これ凄く目立つと思うのですが……」
秘密裡に王宮入りするのではなかったのかと、ランゼーヌは馬車を見て思うのだった。
「わあ、ふわふわですね」
「びっくりだわ。こんなに座り心地って違うものなのね」
ワンちゃんがしてくれたふわふわまでとはいかないまでも、距離も距離だ。お尻が痛くなる事はないだろう。
「何だか申し訳ないわ」
ちょっとの移動でこの待遇。ランゼーヌは、恐縮してしまう。
「いいえ。聖女様は、全員この馬車で移動されます。本来は、長旅ですので……」
「そうね。私達は、目と鼻の先だけど」
「はい。一番移動距離が短いでしょう」
バローニの説明にリラとランゼーヌは頷いた。
「聖女ランゼーヌ様、今回は我々の都合でご不便をおかけしまして申し訳ありません」
「いえ。事情も事情ですし、聖女だという事を秘密にする事は仕方がないと思われます」
「はい。それもですが、それにともなって一度も帰宅できなかった事です」
「え?」
ランゼーヌにしたら別に帰宅しなくてもよかったので、謝られた事に驚く。
「決まりで、自宅に戻った聖女様をこの馬車でお迎えに上がる事になっているのです。それでは、あなたが聖女になった事が周りに知れてしまいます。寂しい思いをしたでしょう。家族が訪ねて来た際には……」
「いえ、執事のパラーグ以外は取り次がないで下さい」
「え?」
今度は、バローニが驚いた。
モンドがランゼーヌに会いに来るとしたら、お給金の事を知った時ぐらいだろう。お金の無心だ。
「わかりました。バラーグ殿以外は、取次ぎをしないように伝えておきましょう」
バローニは、事情を察したのだ。
15歳まで精霊の儀を受けていない事を考えれば、容易にたどり着く。家族は、彼女にまともな扱いをしていなかった事を。
「ありがとうございます」
「いいえ。私は以後、連絡係となりますので、何かございましたらお伝えください」
その言葉を聞いて、ふっとランゼーヌは思い出す。
「はい。あ、そうだわ。私、時間があれば本を読みたいのです。何でもいいので買って来ていただけませんか? 聖女の間はダメなのでしょうか?」
「いえ。本来は、ダメだとは思いますが、実家から持ち出せなかったので許可が出ると思います」
「ではお願いします。お給金から支払って結構です」
「はい。ではその様に伝えます」
「ありがとうございます」
「よかったですね、ランゼーヌ様」
ランゼーヌは、嬉しそうに頷いた。
本を買おうと思ってお金は持ってきてはいたが、お金を渡すより給料から引いてもらった方がいいだろう。
馬車は、精霊の儀を行う為に通った緑のアーチから王宮に入り、儀式の建物とは違う道を通る。
(王宮って広いわ)
なぜか王宮内に門があり、馬車が門の前で止まると門が開く。馬車が通り過ぎると門が閉まった。
庭というよりは、森林の様場所の横を馬車で走る。
(奥に行くほど、精霊が増えていくわ)
馬車から外を眺めるランゼーヌは、ジッと景色を眺めていた。
そのうち、大きな輝く大樹が見えて来て驚く。その周りには、精霊達が集っている。
(あの王宮を遠くから見た時に見えた虹色の光の正体はこれだわ。この木は何かしら?)
「わあ。本当に呪われたところなのですね……」
少し震えた声でリラが言った。
その声によく見れば、輝く大樹の周りの木々は、枯れている。元気そうなのは、大樹だけだ。呪われた場所は、古びた木の柵で囲われているようで、森の奥へと柵が続いている。
「これが、呪われた箱庭です。あの古びた木の柵は、これ以上朽ちる事もなくあの不気味な場所を覆っています」
バローニがそう説明すると、三人は更にジーッと呪われた箱庭を凝視した。
そうしている間に、馬車は目的地、つまりランゼーヌが泊る場所へと到着したようだ。
王宮の裏手で、呪われた箱庭が一望できる場所。一等席だ。
ワンちゃんに、呪われていないと聞いているランゼーヌでも嬉しくない一等席だった。
馬車は、一部分が突き出している王宮の一階部分に進入していく。そこは、馬車を停める為に作られたようで、観音扉開きに開けられ、馬車が入れば扉は閉められた。
「この二階が、聖女様の祈りの間と住居となります」
「え? 呪われた箱庭の目の前で暮らすのですか!?」
皆驚いたが、声を上げたのはリラだ。
「……申し訳ありません。見つからないように移動する事を考えれば、必然的にこちらになりました。ここには祈りの間に入る入り口があり、この真上が祈りの間としてお使い頂く場所になります。とりあえずは、移動しましょう」
「………」
「はい」
ランゼーヌが静かに返事を返すもリラは青ざめて固まっていた。
「リラ、大丈夫?」
「ランゼーヌ様、なぜこんな事になったのでしょう?」
リラは、泣きそうな顔でそう言った。彼女にとって、これは冷遇だと思ったのだ。
「あの一つ伝えておきますが、呪われたと言っておりますが、他に被害があるわけではありません。柵で囲まれた場所が、ずっと枯れたままになっていてそう呼ばれているだけです。まあ、呪われているのは確かだとは思いますが……」
「お嬢様~!! 絶対にここは危険です!」
『何が呪われているのは確かだだ。ランゼには見えてるだろう。精霊樹が」
(あれは、精霊樹なのね。本当に存在したのね)
バローニは、フォローしようとしたがフォローになっていなかった。
「えーと。たぶん大丈夫よ」
ワンちゃんがいなかったらランゼーヌも怯えていたかもしれない。だが、精霊達が集まっているほのかに光る樹木が、精霊樹だと聞き安堵する。
本によれば、精霊樹はこの世界を豊かにする精霊神が宿ると言われていると書いてあったからだ。
(でもどうして、あんな場所にあるのかしら? 周りが枯れているのは精霊樹に関係があるのかしら)
呪いではないだろうと思うも、少し不安があるランゼーヌだった。
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