第15話 騎士と令嬢6
クレイが見て呟いた枢機卿は、司祭と同じ格好だが司祭と違い銀色の衣装を身に着けている。丸い眼鏡を掛けていて、それを左中指でくいっと上げ戻すと、鋭い視線は隠れにっこりとランゼーヌに微笑んだ。
「あなたが、聖女に選ばれたランゼーヌ・ネビューラ男爵令嬢かな? 私は、責任者のレフルーメンドです。あなたにお願いがあります。あなたが聖女として、あの場所を祈りで清める事を内密にしてほしいのです。そうして頂けるのならあなたを聖女として、そして彼を聖女の騎士として認めます」
「え、それってどういう事でしょうか。その、私は疑われているとか……」
ランゼーヌは、ドキドキと心臓が高鳴り少し声が震えていた。
「いえ、そうではありません。異例の事だからです。あの場所は、ほとんどの者が知らないはずです。聖女が居ながら、浄化されていない場所があるなど知られたくないという、こちら側の事情です。精霊がどのような意図であなたとあの呪われた箱庭を指定されたかはわかりませんが、条件を守って頂けるのであれば他の聖女と同様に、聖女としてお勤めを果たす間とその後の保証はするという事です」
それを聞いたランゼーヌは安堵する。
疑われているわけではなかった。ただ秘密にしなくてはいけないとなると、父親のモンドには何と言ったらいいのだろうとランゼーヌは考えた。
「あの、お父さまには何とお伝えすれはば宜しいでしょうか」
「家族には、聖女の事はいつも通りお知らせいたしますが、王命で口外しない事としますので、問題ありません」
「それなら安心です」
ランゼーヌは、ホッとする。
「では、お受けして頂けると言う事で宜しいかな?」
「はい。私は構いません。ですが……」
チラッとランゼーヌは、クレイを見た。彼がどう思っているかわからないからだ。
「私も問題ありません。聖女の騎士になる名誉を賜ります」
右手を胸に当てクレイは、軽くお辞儀をした。
「おめでとうございます。ランゼーヌ様」
リラが嬉しそうに言う。
「では、こちらにサインをお願いします」
司祭が、誓約書を
「そちらの侍女にもサインを頂きます。彼女には、このまま聖女様の侍女としてついてもらう事になります」
「私が、宜しいのですか!」
リラが目を輝かせる。
「はい。秘密を知るのは、少ないに限ります」
「ありがとうございます。精一杯がんばります」
「よかったわ。私もリラで嬉しいわ」
二人は、顔を見合わせて微笑み合う。
三人が、サインをすると枢機卿は、それを受け取った。
「では、私はこれにて失礼する。後の事はこの者に聞いてほしい。頼んだぞ」
「はい。かしこまりました」
部屋を出て行く枢機卿に皆が頭を下げて見送った。
「これからの事ですが、王宮でもあなた達の事は秘密になりますので、勝手に出歩く事が出来なくなります事をご了承下さい。王宮内にお部屋を至急、ご用意致します。それまで、今お泊りの宿で待機願います。聖女様に必要な物は全てこちらでご用意致しますので、そのままいらっしゃって下さい」
「わかりました。部屋で待っています」
「パラキード殿は、聖女様の部屋でしっかりと警護願います。今回はあなただけですので」
「承知しております」
「では、のちほど」
こうして、司祭も去って行く。
「さて、我々も出ましょうか」
「はい。あの、クレイ様もあの宿にお泊りになるのですか?」
「はい。嫌かもしれませんが、同じ部屋になります。寝室には入りませんので、そこはご安心下さい」
「え!? 同じ部屋なのですか?」
「隣の部屋はとれませんので。どうしても嫌でしたら、部屋の外で待機します」
嫌だと言えば、クレイはこの部屋の様にドアの横にずっと立って警備する事になると聞き、ランゼーヌは首を横に振った。
「嫌ではありません。少し驚いただけです。これから宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いいたします。聖女ランゼーヌ様」
クレイは、枢機卿にしたように、ランゼーヌにも右手を胸に当て礼をする。
「なんか、まるで婚約したみたいな会話ですね」
ボソッとリラが、ランゼーヌに耳打ちすると、彼女は頬を赤めた。
「もう、リラったら」
二人は、クスリと笑うのだった。
その後、乗って来た馬車で宿屋に向かう。
「ふう。疲れたわね」
宿に着いたランゼーヌは、主に精神的にと椅子に腰を下ろす。
「お疲れ様でした」
クレイは、部屋に入りドアを閉めると、そう言ってドアの横の壁に立った。
「はい。どうぞ。お嬢様。クレイ様もどうぞ」
「いえ、私は……」
「そうしてくれないと、私も頂けませんので、どうぞ」
リラが、三人分のティーを入れテーブルに置く。
「いつもこうやって、リラも一緒に飲んでいるの。クレイ様も遠慮はいりませんわ」
「ランゼーヌ様がそうおっしゃるなら。失礼します」
丸いテーブルなので、三人は、等間隔で座った。
「でもまさか、ランゼーヌ様が聖女に選ばれるなんて……。これで安心ですね」
「そうかしら? 私は心配だわ。アルドが、いつの間にか実権を握っていそうで……」
『ふん。口先だけの親子だ。戻ったら叩き出してやればいい』
「それはちょっと……」
「何かいいましたか? お嬢様」
「いえ、何も」
二人を叩き出せば、父親のモンドも出て行くだろう。そうなると、一人になってしまう。少し寂しく思うランゼーヌ。
(でもあの三人が居たら、婿なんて来そうもないわよね)
ランゼーヌは小さくため息をつくのだった。
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