第2話 ⑵


「ええと、ホットロイヤルチョコレートひとつください」


 可愛らしい制服の女子店員にお姉ちゃんが告げた言葉に、わたしは「やっぱり」と肩を落とした。わたしが先に450円の物を注文したら、せいぜい550円くらいの物を頼むのではないかと期待していたのだが、お姉ちゃんが頼んだのは700円もする上から二番目の飲み物だった。


「ああ、おいしい!来てよかった!」


 買い物のことも何もかも忘れて楽しんでいるお姉ちゃんの脇で、確かにおいしいが胸の中の苦みで楽しくないわたしは封じ込めていたもやもやが爆発しかけているのを感じた。


 お姉ちゃんのやりたい放題はいつから始まったのか――わたしが知る限り「最初から」としか言いようがない。


 思えばお姉ちゃんのお供は常にわたしの何かを犠牲にし、潰すことで成り立って来た気がする。週末に何をしようかと考えていると「買い物に行こうと思うの」と突然、言ってくる。


 わたしが「どうぞ。行っていいよ」というと「一人だと面白くない」とうつむいて黙り込む。


 それはつまり「何をするかは決めてないけど、週末はいてね」ということなのだ。


 お姉ちゃんは常に、わたしを付属物のように、アクセサリーのように、ペットのように扱う。


 お姉ちゃんが百合花ゆりかでわたしが小百合さゆりなのも、自分のミニチュアと思わせる原因なのかもしれない。お姉ちゃんは道行く人に姉妹と思われるのが好きらしく、アウターも自分と同じブランドの物を着せる――ただし見た目が似ていて二、三千円ほど安い物を。


 誕生日も、クリスマスも、友達と約束しようとすると直前になって「準備したのに!」と泣き顔をこしらえる。「自分の好きな人と過ごせばいいのに」と言うと、「誰も誘ってくれない!」と目を吊り上げる。そんなのは、自分のせいでしょ。


 お姉ちゃんはわたしの気にいった物を奪ってゆくのも大好きだ。意図してそうしているのではなく、そうせずにはいられないのだ。ずっと昔、お父さんの取り合いに始まり、わたしに好きな人ができるとわざわざ部屋まで見に来てなんだかんだと話しかける。そして「わたしに色々聞いてくるの、どうしてかな。興味があるのかしら」と困ったようにわたしに言うのだ。

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