疑い深い疑井さんは、異世界転生したが、疑い過ぎて進まない

ゆうらいと

第1話 疑い深い疑井さんは、異世界転生した

 疑い深い疑井さんは、異世界転生した。


 目を開く。


「……どこだ、ここは」


 目の前には、三人の人間がいる。若い女、若い男、そして真ん中にいるのは、白髪の白い髭を長く生やした老人だった。


「おおお、つ、ついに成功しましたね、勇者召喚」

「老師様!」


 いたく感動した様子の若い男女は、老人に平伏するように頭を下げている。

 老人は落ち着きたまえとその二人をなだめた後、疑井さんのほうに向きなおるといった。


「ゆ、勇者よ。我らに力を貸してくだされ」


 そんな老人を疑井さんは訝し気にみやる。


「どこかの宗教施設か?」


 三人ともお揃いの妙な白服を着ている。

 なかなか見かけないような貫頭衣というやつだ。


「俺を拉致しやがったのか、思い出せん」


 頭を振るが、ぼんやりしていて何も考えられなかった。


「どうやって拉致りやがった。あれだけ万全に生きてるというのに」


 そういうと、三人は満面の笑みを浮かべた。


「我らが生涯をかけた召喚魔法」

「……やっぱり宗教か」


 と頭をかかえた。


「人から渡された飲み物には手を出さないし、カフェやレストランにいくこともない。一体どこで……まさか睡眠ガスか?」


「勇者様。我らをお助けくだされ、魔王が復活し暗黒がこの世界を支配しているのです」


「やっぱり自家用車は、乗る前に空気を完全に交換するべきか」


 話がかみ合わない中、疑井さんの手をぎゅっと握るものがいた。

 若い女だ。

 濡れた瞳で頬を紅潮させて、疑井さんの手を握り締めると訴える。


「勇者様! 私たちを助けてください。もうあなたしかいないのです」

「……離せ」


 疑井さんは女の手を振り払う。


「突然俺を拉致し、訳の分からないことをいいながら世界を救えだと? さらに今度は色気か?」

「勇者様!」


 今度は若い男はやたらと大声で怒鳴ってきた。


「違うのです!」

「何が違うっていうんだ」


 至近距離で大声を出されて、顔をしかめる。


「私たちはあなた様の可能性を信じたのです」

「可能性?どこにだ?」


「それは……あなたの魔力です」

「でたよ!」


 男から距離をとりつつ、捲し立てる。


「目に見えないものを褒める。背後霊だの先祖だの、オーラだの。挙句の果てに魔力たあ?完全に詐欺の手口じゃねえか!離せ、くそが!」


 そういうと疑井さんは走っていった。


「ゆ。勇者様……?」


 あとには三人が残された。

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