第16話 Clock-12
街の光がきらびやかに瞬いている。
美しい夜景。
屋上に立つ彼女は、その夜景を楽しむ余裕はない。
夜風がパーカーのフードを揺らす。
遠くでパトカーのサイレンが聞こえている。
松下楓は、夜風に吹かれながら屋上にたたずんでいた。
そのは赤く泣きはらしていた。
ゆっくりと・・・おずおずと・・・暗いビルの屋上を歩いていく。
そのビルの屋上には柵は設置されていない。
あと2~3歩。たったそれだけ足を動かせば・・・端にたどり着く。
そして、さらに一歩踏み出せば・・・
なんで、こんなことになったんだろう。
私の人生はついていないことばかりだった。
母子家庭だった私。女手一つで育てていてくれた母親が高校生の時に病気で死んでしまった。そのため、高校中退するしかなかった。
高校の先生のつてで就職した会社も、1年足らずで倒産してしまった。
なんとか、バイトで生活していた時に初めての彼氏ができた。
だが、その男は・・・最低の男。
あいつのせいで・・・。
覚悟を決めていたというのに、あと数歩というところで足がすくんでしまう。
動かない足を、引きずるように少しずつ前に運ぼうとする。
怖い・・・でも、生きているのも怖い・・・
もう、生きていても辛いことしかない。
歯がガチガチと音を立てる。
全身が震えている。
でも、もう引き返せない。引き返しても、余計辛くなるだけ。
「またお姉さんでしたか」
突然、すぐ近くで声がかけられた。
「ひいぃ!!」
急にかけられた声に、驚き・・・しゃがみ込む。腰を抜かしてしまったのだ。
きょろきょろと声の主を探す。
よく見ると、空調の機械の陰に座っている影・・・
「せっかく死なずに済んだのに、どうしてですか?」
その声・・・ソプラノボイスに聞き覚えがあった。
先日の少年の声だ。
「だって・・・だってしょうが・・・ないじゃない」
楓の目から涙があふれた。
「あいつ、3百万も借金してて、わたしを勝手に保証人にしてて! そしたら、やくざが取り立てにきて・・・毎日毎日、家にもバイト先にも来て。ものすごく脅されて。毎日怖い目にあって。誰も助けてくれなくて!どうしようもないの!もう嫌なの・・・いや・・・もう・・・・いや・・・」
叫ぶように・・・泣き崩れる。
少年は、黙って聞いている。暗い屋上。その表情はわからない。
少しずつ、楓の声が小さくなる。
やがて、何も言わず涙を流したまま座っていた。
少年は、立ち上がって楓の方にやってきた。
ほんの・・小さくため息をつく。
楓に手を差し伸べて、言った。
「・・・何とかしましょう・・・か」
楓は、呆然とその手を見た。
もう、何も考えることができなかった。
反射的に・・差し伸べられたその手をつかんでいた。
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