第2話 Clock-1

 時田英治が学校から帰宅すると、玄関の横に小さな段ボール箱が置かれていた。

 英治は笑顔になって、その箱を持ち上げる。

 送り主はアルファベット・・・ではなくキリル文字。


 にやにやと箱を見る英治に隣の家から声がかけられた。


「英治にいちゃん、帰って来たんだ。おかえり!」

「ああ!ただいま」


 塀から覗き込んできたのは、隣の家に住む幼馴染の安藤美緒。

 幼馴染といっても小学5年生。漫画のようなラブコメとは縁遠い相手である。


「その箱どうしたの?」

「宅急便だよ。通販で買ったものが届いたんだ」

「ふ~ん。それよりも、宿題を手伝ってよ~」

「ん、わかった。すぐ行くよ」


 英治は自宅のカギを開け、手にした箱を中に入れる。

 すぐに鍵をかけ、隣の安藤家に向かった。


 時田英治は、高校一年生。しかしながら、広い一戸建ての家に一人で暮らしている。

 隣の安藤家とは、昔からの家族ぐるみの付き合いである。父親が海外赴任になってからは、いつも夕食を作ってもらったり何かと世話になっているのであった。


「おじゃまします」

「あら、英治君おかえりなさい」


 にこにこと、美緒の母親の安藤良子に笑顔で迎えられる。


「英治兄ちゃん、早く!」

「はいはい、ちょっと待って」

「英治君、ごめんなさいね。いつも美緒の相手してもらって」

「いえ、こちらこそお世話になってばっかりなので」

「もうちょっとしたら夕食ができるから、食べていってね」

「すみません、いつも・・」


 美緒は良子と話している英治の手を取って引っ張る。


「英治兄ちゃん、は~や~く~!」

「わかったわかった」


 英治は手を引かれながら、美緒に連れられて安藤家のリビングに入っていくのであった。


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 その後、美緒の宿題を手伝ったあと夕食をごちそうになった。

 夕食後、美緒とゲームをして・・・


 英治が自宅に戻ってきたのは9時前。



 自宅の自分の部屋に届いていた箱を持って入る。

 勉強机の上に箱を置き、開封する。



 中から出てきたのは透明で小さなプラスチックケース。

 その中には黒い2センチ四方くらいの物体が収められていた。


 ケースのすみに赤く印字されている文字。

 ”Accelerator”


 英治はそのケースを持ち上げる。

 その物体を見つめながら、内心少しばかり興奮していた。



 英治の趣味。

 それは電子機器・・・・ガジェットを作ったり、改造することであった。


 特に最近いじっているのは、機種変更する前に使っていたスマホ。Wifiで通信するだけのその古いスマホを、ちょっといじって遊んでいるのだった。


 どうせ、もう使わないスマホだからとネットで検索して調べたやり方試してみた。

 最初は、設定をいじるところから。

 ベンチマークアプリで動作速度を調べると、設定を変えるだけでも速くなることが数字で見ることができた。

 結果が数字で見ることができると、楽しくなる。

 それからは、いろいろ調べてやってみることの繰り返し。


 海外で配信されているアプリを入れてみたり。

 ファームウェアを書き換えたり。


 英治がいじることによって、少しづつ速くなる動作速度。

 そのたびに数字で表れる結果。すっかりはまってしまった。


 いろいろ調べると、クロックアップと言うものがあるらしい。

 クロップアップとは、本来の動作周波数を越えた周波数にすることで、性能を上げること。ただし、電力の消費が激しくなるなどのデメリットはある。


 海外のサイトを調べているうちに怪しいサイトを見つけてしまった。


 東欧のある国の個人サイトらしい。Web翻訳をかけて読んでみた。

 ”スマホを分解して、CPUにアクセラレーターチップを取り付けることで物凄く速くなります。今ならそのチップを150ドルで売ります。ただし、スマホを開封して取り付ける必要がありますので自己責任で実施ください”


 正直、高校生には安くない値段。


 でも、ついついクリックしてしまった。

 それが今日届いたのであった。 

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