文という女性のバックボーン
妻、文の中には別人格が4人いた。主人格を合わせると5人だ。
まず主人格の
彼女は真面目で、人の目を気にし、無意識に相手に気に入られるように行動しようとしてしまう子だった。
俺と初めて会ったとき、何を言っても目を見て真面目に、真摯に、話を聞く。これは彼女がそうしたくてしていたわけではなく、いつもの彼女の癖なのだ。
だから彼女はいつでも気を張っている。相手の顔色をうかがっており、怯えている。そのせいで、酷く疲れやすく、傷つきやすいんだ。
この性質は彼女の家庭環境に由来する。
彼女の父は、虐待までは行かないが、子供たちへの関わり方に多少の問題のある父親だった。
機嫌が悪いと、家族に当たり、怒鳴り、時には蹴ったりもした。
仕事では職場で頼られる立派な人ではあるのだが、外聞を気にし、外で溜めたストレスを家族とお酒で発散するタイプの人だった。
母親は、ヒステリーがあり、少しばかりキャパシティが狭い。
困ったりわからない事があるとすべて夫に頼る。
基本的に夫の
夫である文の父は、この母に異常に甘かった。
文と母が喧嘩をすると、父が怒鳴り込んで胸倉をつかまれた事もあるらしい。
その当時はまだ一般的な言葉では無かったと思うが、いわゆる毒親家庭だと思う。
文は長女で、2歳下に弟がいた。
二人は幼いころ荒れる父親に怯え、味方をしてくれない母に失望し、姉弟身を寄せ合って日々を過ごしていたという。
そのため文は、親の目を常に意識し、相手の気に入るように愛想をする。
怒られないように先手を打って行動する。
弟に被害が及ばないようにかばって立ち回る。
そんな子供時代を送ったらしい。
弟君も、あの頃は毎日お父さんに怯えていた。と言っていた。
ストレスで彼女が発症したのは中学3年の頃。
不眠と抑うつ状態で精神科にかかった。医者は親とも面談したそうだが、両親は「娘が精神病なはずが無い。甘えているだけだ」と取り合わなかったらしい。
それからも書ききれない色々
(高校の中退、
それら色々が起こって、彼女は家での立場を無くしていた。
「とにかく普通にしろ」
両親が文に再三言い聞かせていたのはこれだ。
精神科医も何度か話したらしいが、病気ではない、甘えというスタンスを崩さない両親に困ったようだ。
両親の望む。普通
それは、彼女にとっては難しい。
それは、父のいうことを聞いて、家族の感情を一身に受け止め、決して反抗せず、みんなに尽くす、いい娘。そういう役割なのだから。
昔の文はそれをしていた。
父が怖かったからだが、両親はそれが正常で基本の状態だと思ってしまっていた。だが彼女はその無理が祟り、壊れてしまった。
そこから逃げ出す為に、彼女はいつの頃からか、自分の中に複数の人格を作ったのだと思う。
あるトラブルが起こった。
一向に良くならない娘にヒステリーが爆発した母が包丁を持ち出して「一緒に死のう」と彼女に迫るという事件があったのだ。
その為、当時の主治医が精神科に隔離目的で入院させた。
俺と出会ったのはそんな時だった。
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