ぽっちゃり妻の内なる『アイツとあの子とその他数人』

千八軒

他人の知らない多重人格の世界

 俺の妻は多重人格だった。


 正式な病名は、解離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがい

 だが一般にはと言った方が通りがいいだろう。


 一人の人間の中に、何人かの別人がいる――っていうあれだ。

 小説やドラマ、漫画の中では時々出てくるのこの言葉は、フィクションによって世の中に広まっている。


 俺は小説執筆を趣味にしているアマチュアだ。

 そんな俺のTwitterではいつも創作界隈が盛り上がっている。

 たまに見かけるのは


「二重人格のヒロインはどうかなぁ?」


 いいと思う。俺も昔そういう話を書こうと思った。

 一人で二回美味しいヒロインだ。

 設定だけでご飯三杯行ける。ドラマも作りやすい。


 だが、妻と出会って、現実として存在する、解離性同一性障害かいりせいどういつせいしょうがいという病気を持った人間を知った事で、小説に書く気は失せた。


 最高の取材対象がいるのになぜ?


 リアルで見るその病気は、複雑で、めんどくさくて、案外と夢の無いものだったからだ。。これが一番しっくりくる。フィクションには向かない。



 すっかり出てこなくなった彼らの事を思うと、さみしい気持ちもある。

 必要がなくなったから消えたのだから、もう会えなくてもいいのだが。



 登場人物は、俺こと昌行まさゆき 妻、ふみ

 そしてアイツの名は癒月ゆづき、小さなあの子の名は子萩しおぎという。




 

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