3.私の逆襲

私はお兄ちゃんとあの女が高校に行く前に、自分は中学に行ったふりをした。そして、2人が家を出た後、お兄ちゃんの部屋に忍び込んだ。そして、あの女の服や下着などの私物を切り刻んだ。あの女の物だけ壊すと私が怪しまれそうだから、お兄ちゃんがあの女から貰ったであろうアクセサリーなども壊しておいた。

お兄ちゃんとあの女の写真…

これが一番処理に困るなぁ…

あの女の顔はカッターで切り刻みたいけど、お兄ちゃんは写真と言えども傷つけたくない。

そうだ!お兄ちゃんの所だけ切り取って保存しとこう♪そしてあの女の顔をぐちゃぐちゃにしてから捨てればいいわ!私って頭いい!!

なんて事を考えているとケータイが鳴った。

友達のナユカからだ。


『ちょっとメル!大丈夫?!カゼ?!無断欠席かってセンセ凄い怒ってるよ?!』


学校なんてどうでも良い。

私にはお兄ちゃんを守る事が一番大事なの。

あ、でも私のアリバイは作っておかなきゃね♪


『ごめん!今日ちょっと体調悪くて…あのさ、先生はどーでも良いけど、うちのお兄ちゃんにもし会ったら『メルは学校来てた』って言っといて!心配かけたくないの!よろしく!』


「返信…と。…さて、続きをやりますか。」


私は再びお兄ちゃんの部屋を荒らした。

お兄ちゃんの部屋から出ると、私の部屋に戻り、私の物もいくつか壊しておいた。私は別に物に執着心はない。お兄ちゃんがくれた物とか以外ならだけど。

最後、キッチンやリビングも荒らして、私は鍵をかけずに家を出た。


「…ん?開いてる。メル先に帰って来たのかな?」


お兄ちゃんとあの女が帰ってきた。2人は手を繋いでいる。今すぐあの女の手を切り落としてやりたいけど、私は我慢して物陰から様子を見る。

このマンションはセキュリティが甘い。

防犯カメラすら無いから、私がこんな怪しい動きをしていても、目撃者すらいなければ平気だ。


「ただいまメル…って!何だよこれ…」


家からお兄ちゃんの驚いた声がした。


ああ、懐かしいな…

2人でかくれんぼした時、お兄ちゃんあんな声で驚いてたな…私が凄いところに隠れてたから。


しばらくしてから、私は家に入った。


「ただいまー。お兄ちゃん、どうし…きゃぁあ!な、何でこんな…」


我ながらリアルに演技できた気がする。


「分からない…多分空き巣か何かだろう…でも大丈夫だ。金とかは盗られてなかった。」


大丈夫だろう…じゃないでしょ?

お金があるか確認したの?お金の隠し場所、この女に知られたの?全然良くないよ。お兄ちゃん。


「とりあえず俺、ケーサツに電話する。」


そう言ってお兄ちゃんは部屋に戻った。


キッチンに取り残された私とあの女。

あの女は気まずそうに俯いて、お兄ちゃんの部屋に戻ろうとする。


「待てよ尻軽女。」


私は女の腕を掴み、爪を立てた。


「メルちゃん…?」


「気安く呼んでんじゃねえよブス!てゆかさ、これ、あんたがやったんでしょ?」


「え…な、なんでそんな…」


「あーあ、あんたが来る前は平和だったのに…超最悪!金目当てかなんか知らないけどさ、安心してよね。お金の隠し場所は変えるから!」


そう言って私は両親の位牌の近くに隠していた我が家の通帳と現金を集めた。


「私はお金を盗ったりしない!リレンと同居を始めたのもリレンのことが好きだからで…」


「あー、はいはい。私の大事なお兄ちゃんをお前ごときが呼び捨てですか!でもさぁ、あんたが来てからうちがこんな事になったんだから、どっちにしろお前疫病神でしょ?」


私はそう言い放つと、自分の部屋に戻った。




しばらくして、家にケーサツが来た。

ケーサツは最近この辺りに出没する空き巣の仕業だろうと言った。

お兄ちゃんとの思い出の品を壊されて、あの女は泣いていた。お兄ちゃんに慰められてるのが気に食わなかったけど、あの女を不幸にできたことは良かったかな…。

あの女がコンビニに出かけている間に、私は我が家の財産の新しい隠し場所をお兄ちゃんに教えた。

あの女には教えないようにと言い聞かせた。


「メル、レアのことまだ警戒するのは分かるけど、あいつ、悪い奴じゃないから安心して良いんだよ?」


「…私、お兄ちゃん以外の人間信じないから。」


どうしてお兄ちゃんはあの女の肩を持つの?


私は気分が悪いと言い、自分の部屋に逃げた。

散らかった部屋。

昨日大量に飲んだ薬のビンが転がってる。

血の付いたカッターも。

お兄ちゃん、私の手首の傷、気がついたかな?

心配してくれないってことは気がついてないんだよね。

さっきだってそうだった。

私も空き巣の被害者なのに、泣いてるあいつばっかり心配して、私の方は見向きもしなかった。

前までは私の些細な変化にも気がついて心配してくれてたのにね…。

14年も一緒にいるのに、ひどいよ、お兄ちゃん。

でも、お兄ちゃんのこと嫌いになんかならないよ?

あの女が悪いんだもん。全部あの女が悪い。

あの女が…あの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女があの女が…


「メルちゃん…」


ガチャとドアが開いて、1人の女が私の部屋に入ってきた。


「は?何あんた、勝手に入ってこないでよ!」


私の言葉を無視して、女は私の手首を優しく掴んだ。そして、コンビニ袋から何かを取り出した。


「これ、良かったら使って。傷治るか分からないけど…」


取り出したのは絆創膏だった。少し大きめの。私のリスカの跡が隠れるくらいのものだった。

いつのまにか、私の瞳から涙が溢れていた。


「なんで…なんでこんなことするの…なんであんたが…


なんでお兄ちゃんじゃなくてあんたなの?!」


私は女を思いっきり突き飛ばした。


なんで?なんでこの女が私の事を心配するの?意味わからない!私はこいつが大っ嫌いで、だから嫌がらせしてるのに…暴言吐いたのに…

なんでお兄ちゃんが来てくれないの?

なんでお兄ちゃんが心配してくれないの?

なんでお兄ちゃんの瞳には私だけが映らないの?

それもこれも全部この女が悪いんだ…

この女が私たち兄妹の平和な暮らしをぶち壊したんだ!この傷だってそう。この女さえいなければ私はリスカなんかしなかった!


偽善者の豚女…

絶対に許さない…


「メルちゃん…あの…」


「触るな穢らわしい!!今すぐ出てけクソババア!」


私は部屋から女を追い出し、鍵を掛けた。

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