ストーカー幽霊 VS. 厄介ガチ恋ヲタク僕

令和の凡夫

第1話 推し活

 鈴音ミーア。いま僕が推しているVtuber。


 彼女は猫をモチーフにした、とってもチャーミングな配信者だ。

 僕は毎日YouTubeで彼女の配信を観てスパチャで応援している。

 スパチャというのはスーパーチャットの略で、いわゆる〝投げ銭〟によって自分のコメントを目立たせる機能のことである。


 僕は彼女にガチ恋している。つまり、本気で恋をしているということ。

 彼女のことが好きで好きでたまらない。

 記念グッズは全部そろえているし、動画にはすべてグッドボタンを押しているし、もちろんメンバーシップにも入っている。


 しかし残念なことに、僕はミーアに対してお気持ちを表明しなければならない。

 ちょうどいま彼女がスパチャ読み雑談をしているので、僕はコメントを打つ。



『ミーアにゃん、先月の僕の上限スパチャ、読んでくれた? 配信では読み上げてくれなかったよね? それどころか、名前だけすらも読んでくれなかった。気づかなかったのかな? 優しいミーアにゃんが僕のことを無視するはずないもんね。僕は怒ってないよ。だから、今日それを読んでくれるかな?』



 この内容で、しっかりと目立つように一万円の赤スパでコメントを投げた。


 いちおう説明すると、スパチャは金額によってコメントの背景色が変わる。

 最大金額の色は一万円以上の赤色である。これを赤スパと言う。

 また、スパチャの上限金額は五万円で、一気に五万円を投げることを上限スパチャと言う。


 僕はミーアがコメントを読んでくれるのを待った。

 いまは逐一コメントを拾っているので、赤スパをスルーするはずがない。


 ところが、どういうわけか、僕の赤スパの次に出ているやっすい緑スパチャを読み上げた。その後も僕の赤スパを拾う気配がない。


 どういうことだろう。これはもう意図的に無視しているとしか考えられない。

 僕のコメントには何かマズいことでも書いていただろうか? それとも、前回の上限スパチャでマズいことを書いたか?

 思い返しても心当たりはないが……。


 ちなみに、前回送った上限スパチャのコメントは以下のとおりだ。



『ミーアにゃん、今日もかわいいね。大好きだよ。ミーアにゃんはガワもかわいいし、声もかわいいし、歌も上手だし、本当に最高。愛してる。歌手としてメジャーデビューする夢を応援しているよ。ミーアにゃんが好きすぎて、コンサートではチケットを買い占めちゃうかも(テヘペロ)僕は前世のスズラン時代から応援しているよ。素顔もかわいいよね。年齢は三十歳で僕より七つも上だけど、愛に年齢は関係ないよ。僕は年上でも愛せる器の大きい漢だから。そういえば、前に彼氏がいるって噂があったけど、あれは本当? 本当だとしても、僕は待ってるよ。次は僕だからね。忘れないでね(キラッ)』



 あれだけ全肯定して愛をささやいたのに、なんで読んでくれないんだろう。

 もしかして、「次は僕だからね」の前に「もし彼氏と別れたら」って付けなかったのが悪かったのかな? 浮気しろって勘違いさせちゃったのかも。

 もう一回送ってみよう。もちろん、赤スパで。



『ミーアにゃん、見落としてるよー(笑)そこ、そこに赤いのがあるじゃろ? 今日のは読み上げなくてもいいから、前回の上限スパチャと僕の名前だけでも読み上げてほしいなぁ。にゃん、にゃん、ミーアにゃん、愛してるゾッ!』



 さすがにこれで拾ってくれるだろう。前回分と合わせて、スルーされているのは七万円にものぼるのだから。

 ミーアは優しいから、七万円もの大金をスルーできるはずがないんだ。


 そして、ついにミーアが僕の名前を口にしてくれた。


柚葉ゆずはさん、ごめんなさい。怖いので、もうコメントしないでください。ファンは大切にしたいんですけど、さすがに次はブロックします』


 ミーアが涙声でそう言った。


 コメント欄が荒れている。

 消えろだとか、厄介すぎるとか、僕に対する罵詈雑言が嵐のように流れている。


 まったく理解できない。


 僕は配信をそっと閉じた。


「あーあ、明日はバレンタインデーだから楽しみにしてたのになー」


 もちろん、ミーアからチョコレートをもらえるわけではないが、バレンタインイベントとして、記念グッズが販売されたり、愛の言葉を投げかけてくれるのだ。


 しかしあんなことを言われたら、明日それを聞いたところで僕以外の人に言っているのだとしか思えない。

 実際、〝まやかし〟でしかないと分かってしまった。


 せっかくミーアにみつぐために格安のアパートに引っ越したのに。

 家賃が月一万円の事故物件に引っ越してまで、スパチャ用のお金を確保したのに。

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