【完結】学級の自称堕天使

私雨

プロローグ

 私のクラスには中二病がいるという噂をよく聞いた。

 同級生曰く、あまり関わらないほうがいいタイプだ。


 ーーそんな彼女は今、目の前に立っている。

 

 でも、私は噂を信じないことにした。彼女のことどころか、クラスメイトのこともほとんど知らないんだ。


「おはよう、高橋たかはしさん」


 やばい。なんで私に挨拶をしたのか? 話したことは一度もないのに。

 そう言えば、彼女の名前はなんだっけ? クラスメイトの口から何回も聞いていたはずなのに、思い出すのに数秒かかった。山女魚やまめ 烏三子うみこだったよね? やっぱりそんな名前を忘れるわけがない。


「お、おはよう、山女魚さん」


 噂によると、彼女は堕天使のふりをしている。今は普通の女子高生にしか見えないけど。

 紫色の長い髪が肩にかかる。緑色の瞳が私を見つめて、その色に近いネクタイが襟元に結ばれている。同じ灰色のスカートを履いていて、脚が黒いタイツに包まれて、ブレザーを着ている。

  烏三子は一歩距離を詰めて、笑顔を見せた。


「ね、これからは友達だよ!」


 どういうことだ? 挨拶を交わしたばかりなのに、彼女はもう友達だと思っているのか!? 「そんなことないよ、勘違いしないで」と言いたかったけど、噂を思い出すと烏三子を可哀想に思った。だから、私は彼女の妄想を肯定してしまった。


「うん! よろしくね」

「それじゃ、烏三子うみこと呼んでいいよ」

「私のことも日向ひなたと呼んでね」


 当時の私が知らなかったのは、この他愛のないやり取りが後で仇となるってことだった。

 

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