恋愛観がお子様すぎる先輩女子が、イチャイチャしたいダウナー系後輩女子にぐいぐい迫られるお泊り会

上村夏樹

女の子カップルのお泊り会【前編】

 私とゆいは恋人同士。

 付き合い始めてもう三ヶ月が経つ。


 女の子同士のカップルを変な目で見る人もいる。

 だから、交際していることは二人だけの秘密なの。


 唯は同じ高校に通う一つ歳下の後輩だ。

 金髪で派手な見た目だけど、性格は大人しい。ちょっとダウナー系で、眠たそうな二重のお目めがとっても可愛いのだ。


 私たちの関係はすごく進んでいる。『大人の恋愛』をしていると言っても過言ではない。『性が乱れに乱れまくっている』と言い換えてもいいと思う。


 あまり大きな声では言えないけれど……この前、私たち手を繋いだの!


 まだ付き合って三ヶ月なのに進展しすぎだよね。高校生らしからぬ大人の恋愛だよね。これが映画だったらR18だよ!


 一年後にはキスもするだろうし、五年後には同じベッドで互いの素肌を重ね合い……きゃー! 五年でそれは早い! 進みすぎ! 私ったら大人すぎるー!


 今日は唯が家に泊まりにくる。

 両親は仲良く旅行中なので、この家には私しかいない。


 両親の不在中、恋人が家に泊まりにくる……とすれば、大人の私たちがやることは一つだけ。


 そう……テレビゲームだ。


 今日は唯と朝までゲームするつもりなの。

 大人だから、寝なくても大丈夫だよっ!


 でも、せっかくのお泊り会だもん。遊ぶだけじゃもったいないよね。

 手を繋いだり、ひざ枕したり、そういう恋人っぽいこともしてあげようっと。


 唯はお子様だから、大人の私がリードしてあげなきゃ!


 唯……今夜は寝かさないぞっ?


 れっつ、朝までゲーム!



 ◆



 ピンポーン。


 自宅のインターホンが鳴った。

 きっと唯が泊りに来たのだ。


「はーい! 今行くー!」


 私は小走りで玄関に向かい、ドアを開けた。


「こんばんは、絵音えのん先輩」


 唯は抑揚のない声で私に挨拶した。


「いらっしゃい! 相変わらず元気ないなー、唯は」

「絵音先輩と一緒にしないでください。わたし、感情表現は得意じゃないですから」

「むぅ。うちら付き合ってるんだから、先輩って言うのやめようよ」


 頬をふくらませて抗議すると、唯は「めんどくさいです」と一蹴した。


 私たちの関係は秘密なので、校内で呼び捨てはマズい。

 だから、唯は未だに私のことを「絵音先輩」と呼ぶんだけど……。


「せめて二人きりのときは名前で呼んでよぅ」

「じゃあ、のんちゃんで」

「誰がのんちゃんか!」


 唯はほんの少し広角を持ち上げて、私の頭をぽんぽんした。


 子ども扱いするなっ!

 私のほうがお姉ちゃんなんだからね!


「気が向いたら名前で呼びます」

「あ、ちょっとぉ! まだ話は……」

「おじゃましまーす」


 唯は気怠そうに靴を脱ぎ、我が家に上がった。


「もう。唯よりも私のほうがお姉ちゃんなのにー……」


 文句を垂れつつ、前を歩く唯の後ろ姿を見る。


 唯はワイシャツの上にチェック柄のベストを着て、下はダークグリーンのスカートだった。すらりと伸びた脚はタイツに包まれている。


 対する私は、パーカーにデニムの短パンという服装……ま、まぁ? 服だけで大人かどうかは判断できないからね? お姉ちゃんの座は譲らないよ?


 どうにか自尊心を保った私は、唯をリビングのソファーに座らせた。彼女の隣に私も座る。


「ときに絵音先輩。今日、ご両親はいないんですよね?」

「うん。いないよ」

「そっか……わたしたちの夜の営みを邪魔する人はいないんだ……」


 唯は無表情のまま、小さくガッツポーズをした。

 夜の営みってなんのことだろう。私にはよくわからない。


「そんなことより、唯! 今日はゲームしよ! 朝までゲーム!」

「えっ……朝までですか?」


 唯は露骨に嫌な顔をした。


「絵音先輩。もしかして、寝ないつもりじゃ……」

「当たり前じゃん。大人だから寝なくてもへーきだもん!」

「却下です」


 唯は両腕をクロスして大きなバッテンを作った。


「だ、だめなの?」

「はい。二人きりのお泊まり会ですから。夜の営みも大事です」

「でた、謎のワード『夜の営み』! それ、よくわかんないんだけど……」


 でも、唯が嫌がることはしたくない。

 仕方ないよね。お姉ちゃんの私が我慢するしかないかー。


「唯とゲームするの、楽しみだったんだけどな……」


 唯もゲーム好きだから、喜んでくれると思ったのに……残念だ。


 いじけていると、隣で唯が嘆息した。


「……はぁ。わかりましたよ、絵音先輩。ゲームしましょう」

「ほんとに!?」

「ただし、ちょっとは寝る時間もください。夜の営みも楽しみなので」

「またでた! それさっきからなんなの!?」

「営みは営みでしょう?」

「そ、そっか……わかったよ」


 営みの意味はよくわからないけど、私は唯の提案を受け入れた。

 先輩だから、後輩のワガママくらい聞いてあげないとね!


 私は早速ゲームの準備をした。

 先週発売されたばかりの格闘ゲームを起動させて、互いにコントローラーを握る。

 キャラクターを選択すると、対戦が始まった。二本先取の三本勝負だ。


「絵音先輩。罰ゲームありにしましょう」

「いいよ。何にする?」

「わたしが勝ったらキスしてください」

「なんだ、それくらい……ってうえぇぇぇ!? キ、キス!?」


 慌てて隣を見る。

 唯はゲーム画面を見たまま「そうです」と静かにつぶやいた。


「そうです、じゃないよ! キスなんて、そんな……!」

「絵音先輩。画面見ないと負けますよ?」

「それどころじゃないんですけど!?」


 ツッコみつつ、私は前を向き直した。


 唯とキス。


 そんなドキドキすること、まだ考えたこともない。私のプランでは、キスは付き合って一年後の話なのだ。


 再び隣をちらりと見る。

 唯の色っぽい艶やかな唇が目に飛び込んできて、おもわず頰が熱を持つ。


 動揺した私は上手くプレイができず、一本目の勝負は敗北を喫した。


「ストップ! たんま!」


 私は慌ててポーズを取り、ゲームを中断した。


「どうしました、絵音先輩。おトイレですか?」

「ちっがーう! 罰ゲームの内容だよ!」

「何か変ですか?」

「変っていうか、その……キスはまだ早くない?」


 もじもじしながら言うと、唯は盛大に嘆息した。


「はぁ……これだからお子様は」

「な、なにおぅ!」

「いいですか、絵音先輩。付き合って三ヶ月も経つのに、キスさえしてないカップルなんていませんよ」

「そ、そうなの?」

「はい。むしろ、そっちのほうが変です」


 なんてことだ。

 最近の若い子の性は乱れている!


「わたし、今日という日を楽しみにしていたんです」


 唯は私の手をギュッと握った。

 先ほどまでコントローラーを握っていたせいか、唯の手は少し汗ばんでいる。


「絵音先輩と二人きり。だから、いっぱい恋人らしいことができると思って」


 唯は表情を変えずに唇を舐めた。

 濡れた唇はやけに扇情的で、挑発しているように私には見える。


 知らなかった。

 普段は眠たそうな顔をしているのに、恋人を誘う女の顔もできるんだ。


 一瞬、唯が大人のセクシーな女性に見えたが、私は慌てて首を左右に振った。


「だめだめ! 罰ゲームなし! キスはまだ早いよ!」

「いいんですか、絵音先輩。罰ゲームをなくす場合、今から襲っちゃいますよ?」

「おおおっ襲う!? ゆっ、唯のえっち!」

「ええ。性欲を持て余すほどにはエッチですが何か?」

「聞きたくなかったよ、そのカミングアウト!」


 何この後輩。普段とは打って変わって全力なんですけど。


 唯ってば、どれだけエッチなのだろう。

 私の服を脱がして、あんなことやこんなことをするつもりじゃ……うがーっ! それは無理! 付き合って五年後でも無理かもしれない!


 唯は意外と頑固だ。主張を曲げたりはしないだろう。


 だとすれば、私が性欲の魔の手から逃れる方法はただ一つ。


 このゲームに、勝つしかない。

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