5-8

 最下層のフロアと階段を隔てる無機質な扉。緋那子は扉に背中を預け、腰を下ろしていた。


「はぁ」


 セリアの計らいでフロアの会話はすべて聞こえている。フロアにネットワークは通っていないはずだが、どうやら医療器具に有線が繋がれているようで、そのラインを通じて声を届けてくれている。


「もう、お姉ちゃんったら。涙腺緩すぎだってば。そんなキャラじゃないでしょ」


 そうぼやいた緋那子の口元も、震えていた。


「んん、胸にきちゃうよ。こんなの聞かされれば……」


 だって、蒼穹祢には立ち直ってほしかったから。


(高校一年の頃なんか、ボロボロで見てられなかったもんなぁ)


 目尻に浮かんだ涙を指で拭い、緋那子は震える口元を優しく緩めて、


「よかったぁ」


 心からの想いを言葉にした緋那子は、頬に温かな涙が伝うも、どこか嬉しげだった。

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