第91話 五年後

 山田市太郎と現道優が出会ってから五年が経った。

 お互い二十七才となり、市太郎は管理省の特殊探索課という部署のトップとなり、優はアンチマジック能力者として特殊ダンジョンの探索の他に、他国のアンチマジック能力者の教師役となっている。

 世界中に魔力ゼロの人間を探し出して、日本でアンチマジック能力者として特殊探索者に鍛え上げ、優の教えを受けた者達は出身地に戻り世界中の特殊ダンジョンを攻略している。

 入道護道は魔力病の第一人者として治療不可能と言われていた重度の魔力病の治療にも成功していた。

 アンチマジック能力者が世界中に広がり始めた。


「やぁ、優君。調子はどうだい?」

「久しぶりだね、市太郎君。そっちこそ調子はどう?」

「忙しいよ。各国から特殊ダンジョン探索依頼や呪われている武器やアイテムの削除、探索者会議への参加と。本当に忙しいよ」

「お互い忙しいね。僕もこれから皆とダンジョン探索だよ。アメリカの火炎樹林ダンジョンの探索さ」


 優は世界中の特殊ダンジョン探索している。他にもアンチマジック能力者は居るが、直観力があるアンチマジック能力者は優以外に居ない。だから情報の無い特殊ダンジョン探索には優が呼ばれてダンジョンの情報を集める。

 アンチマジック能力者は数少ない希少な探索者だ。世界中でも五十人しか確認されていない。その五十人の一位が十年前からアンチマジック能力者として生き続けている特殊探索者の優である。


「帰ったらみんなで食事でも行こうか。日頃の疲れを癒すためにも」

「そうだね。このところ忙しかったし」


 優と市太郎が雑談中に優を呼ぶ声が聞こえた。


「優! そろそろ出ないと遅れるわよ」

「先生―! 早くー!」

「すまない、じゃ、またね市太郎君」

「優君、レストランの予約をしておくから、帰国後に連絡してくれ」


 優は市太郎と別れて同年代の女性、そして高校生の少女と一緒に管理省を出る。

 同年代の女性は市川輝美(イチカワテルミ)。優や市太郎と同年代の管理省専属の探索者だ。

 そして『災難の世代』と言われた探索者高等学校の卒業生でもある。

 災難の世代とはその年の探索者の卒業率が三割だった事である。入学当時は百五十人くらいの生徒が卒業時には約三十人しか卒業が出来なかった。

 その理由は入学当初の探索訓練中の事故で死者や重傷者を出して、生徒の数が百人まで減った。

 その翌年にはテロに巻き込まれて約六十人まで生徒の数が減り、更に翌年に約四十人に減り、卒業時には約三十人となった。

 百二十人もの生徒が死亡や重傷で学校を辞めた『災厄の世代』の卒業生の一人である輝美。

 しかし輝美は無傷で卒業できた訳ではない。入学当初の探索訓練で顔に消えない大きな傷を負い、親友の一人が死亡、もう一人の親友は重傷で学校を自主退学した。

 親友を助ける事が出来なかった事があって輝美は自身を責めて、探索者高等学校で暗い性格となった。

 運良く生き延びて卒業したが、顔に消えない大きな傷がある事と暗くなった性格のせいで他の探索者とは上手く付き合う事が出来なくなる。

 その後、探索者を止めてニートになるが、重傷を負った親友に励まされて、性格を明るく改善して普通大学に進学した。

 大学卒業後、ダンジョン管理省に入社して、特殊探索課の一員として、今では優の秘書的立場となり働いている。補足だが優と輝美は去年から付き合い出した。

 

 高校生の少女。日本で三人目のアンチマジック能力者である日和千佳(ヒヨリチカ)。

 地方の孤児院出身の日和は、中学三年の十五歳のときの魔力量検査で、魔力量ゼロと判断された。

 しかし数日後には山田市太郎が直接、日和を特殊探索者にスカウトに来た。

 日和の居る孤児院の先生達は「日和を危険な探索者にはさせません!」と反対するが、市太郎は特殊探索者の今までの業績から今後の今後の計画。特殊探索者のメリット等を提示する。


「日和千佳さんの教育等も管理省が責任を持ちます。中学生なので特殊探索課のアルバイトとして雇用も出来ます。時間給ですが……」


 給金を聞いた孤児院の先生方は驚く。バイトの時間給の金額ではないからだ。


「高校時は給与になります。その場合は日給月給どちらで相談可能です」

「高校の入学金も管理省が出します。寮も生活費の管理省が支払います」


 一緒に聞いていた日和は「探索者になります!」と言った。彼女は孤児院の生活では高校や大学に行く事が難しいと知っていた。そして魔力量ゼロと知った時は自身の不幸を嘆いた。

 しかし魔力量ゼロが幸運を運んでくれた。管理省のバイトで孤児院に仕送りも出来る。学校にも通える。良い事尽くめで、幸運が巡って来たと思った。

 日和は探索者になる為に東京に引っ越す。

 そして山田の言葉通り、日和はダンジョン管理省の家族寮で生活する。そして特殊探索課で優と出会う。優は日和を弟子として鍛え育てる。日和は優を先生と慕い一生懸命技術を学ぶ。

 日和は「先生の弟子だから住み込み弟子になる!」と言って優の部屋で一緒に生活しようとするが、優と付き合い始めた輝美に邪魔される。

 最終的に二人は優の隣の部屋に引っ越して、輝美と日和は同じ部屋で一緒に生活する。

 輝美と日和。仲の良い二人の関係はライバルか姉妹なのかは不明である。

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