魔力ゼロの探索者～魔力ゼロは無才ではなく異才だった～

第90話 アンチマジック能力者②

　市太郎は入道護道の他にも『アンチマジック能力者』が居るのかを調べていた。

　調べた結果、国内で魔力量がゼロと判明した者が二人いた。

　日野ひまわりと新家リナの二人。数年前に亡くなっている故人だった。

　二人の事を調べ上げる市太郎。

　日野ひまわり。十二歳の時に両親が事故で死亡。親族をたらい回しに移動し、最終的に母親の祖父母、日野兄妹の曽祖父母に行きつく。今まで親族達から心無い言葉を言われ続けていたので捻くれた性格になるが、曽祖父母と妹には心を開いている。

　高校時に地域の金持ちの息子とトラブルを起こして高校退学になる。そして多額の慰謝料を請求されて、曽祖父母の家と土地を売っても返せないので、金を稼ぐために上京してチンピラの様な生活を送る。

　高校時のトラブルは金持ちの息子が日野ひまわりの友人を半殺しにした事が原因で、被害者の友人を助ける為に加害者の息子に歯向かった日野ひまわりが、金の力で逆に罪を着せられて暴行犯という事に変わった。

　上京した日野ひまわりはダンジョン鉱石の不当販売業者の下で働き始める。法に触れる仕事で金を稼ぎ、妹や曽祖父母に仕送りをしていた。

　その後、麻薬になる鉱石の販売や鉱石麻薬などの商売を始める。

しかしダンジョン管理省や警察にバレて、日野ひまわりは身代わりとして罪を押し付けられて麻薬中毒者にされて殺される。

　日野ひまわりの妹のエマは、兄が死んだ事に何の感情も持ち合わせていなかった。兄のせいで曽祖父母の家が無くなり、年金も借金でなくなり家族を不幸にした元凶なのだから。

　日野エマは苦学生としてバイトをしながら高校に入学して曽祖父母と一緒に生活をしていた。日野ひまわりを陥れた地域の金持ちの息子に目を付けられてエマは乱暴された。

　乱暴されたエマは自殺する。曽祖父母は何も出来ない事に希望を失い生きる事を諦めて亡くなった。

　不当販売業は探索者ギルドの『蛇使いの笛』の下部組織だった。蛇使いの笛の探索者は「こいつがオレ達に黙って鉱石を麻薬にした張本人だ！　オレ達は騙されていた！」と説明し、ギルド蛇使いの笛のバックの財界人の力を借りて罪を日野ひまわりに擦り付け『麻薬を日本中に広げた悪徳犯罪者』と大々的に報道された。

　数年後、日野ひまわりは冤罪で、蛇使いの笛に口封じに殺されたという事が分かったが、報道はされなかった。

　新家リナ。新家家の三女。長女は会社役員、次女は探索者。

　父親は探索者専用の武器や道具等の会社の社長で、母親は幼少期に死亡。

　新家リナが十三歳のとき、父親が亡くなり、長女が会社を継ぐ。しかし他の役員が足を引っ張り会社の売り上げは下がる。

　新家リナが十四歳のとき、次女が探索者になり会社専属の探索者となる。会社の足を引っ張っている幹部連中を首にした長女。規模は縮小したが売り上げが少し回復した。しかし幹部連中はライバル会社に就職して嫌がらせをして、銀行からも融資がされなくなった。

　新家リナが十五歳のとき、会社でバイトをしながら進学校に通う。将来は長女を手助けできるように経済方面の大学に進む予定だったが、経営は悪化する。

　銀行に融資を長女が頼むが、融資の条件にリナがライバル会社次期社長の中年男性に嫁ぐ事で、長女と次女が大反対する。そして次女がダンジョン探索に失敗して死亡する。失敗により違約金が発生した。会社や家族の為にリナは結婚を決めた。

　新家リナが十六歳のとき、結婚する。そしてライバル会社と合同会社となり重役が入れ替わり、クビにした元幹部も役職に就く。社長である長女の力もなくなり、会社が乗っ取られる。

　新家リナが十八歳のとき、籠の鳥状態で連絡手段を持っていないリナが、会社が乗っ取られた事を知って夫を責める。しかし夫から激しく暴行を受けて放置され、リナは死亡した。

　長女は姉妹も会社も失い絶望する。その後、新家家の墓の前で自殺する。

　数年後、会社は汚職や不正報告、着服や脱税などで会社が傾き、そのまま倒産した。

そして倒産した結果、新家姉妹について報道がされた。芸能ニュース等で『不幸すぎる美人姉妹の真相』と題されてお茶の間に広がる。

　……二人の死亡原因を調べていたら気分が悪くなった。

　冤罪にかけられ家族全員が死亡という事にため息が出る山田市太郎。

　この件は誰にも伝える事が出来ないと考え、報告書をシュレッダーにかける。