第69話 戦闘訓練②
探索者高等学校一年生の二回目のダンジョン探索訓練。
今回は草食動物系モンスターが出現するダンジョンで、牛系・豚系・鳥系のモンスターを討伐して、討伐したモンスターは解体業者に渡されて食肉処理される。
この訓練の主な目的はモンスターを殺せるかの実地訓練で、最初は血を見て気分が悪くなる者、止めが刺せずにいる者、命を奪って泣く者の為の訓練だ。その逆もある。
「ザコだなー。刺したら簡単に死んだぜ、こいつら!」
「簡単に殺せるな。やっぱ、オレ達強くなっているぜ!」
「お前達! 何をしている! 食用とはいえ生きているモノだぞ! 誠意をもって相手に対峙しろ!」
殺す事に喜びを感じ、命を奪う事を楽しんでいる者を諫め、矯正して再教育を行う。
特殊探索科の現道優と山田市太郎も一年生なので参加する。
「これが命を奪う行為……」
鶏のようなモンスターを殺した優。手に持っている大型包丁には赤い血が付いている。
「平和の為にモンスターを討伐する。食料の為にモンスターを殺す。……忘れがちだが人間は多くの生命を糧としている。日々の感謝を忘れないようにしよう」
優の討伐の手助けをした市太郎。初めて討伐した事でショックを受けている優を慰めた。
初めて自分の手でモンスターを殺した優を慰める市太郎。……一回目の探索訓練の優が探索者の盾となってゴースト系の退治は数に含めない。
クラスメイトの男子達はなんとかモンスターを退治して止めをさしているが表情は暗い。女子達は止めが刺せずに泣く者か吐き気を催す者が多かった。
「君達は肉や魚を食べるだろう。モンスターを殺すのが可哀そうだから、二度と肉は食べないか? そのような考えを持つのなら探索者なんて辞めてしまえ。そして菜食主義者にでもなれば良い」
Aクラス担任の車田轟に「珍しくまとも事を言った」と誰かが言った。副担任の新家メイをいつも口説いている大人ではなく、生徒に教えている教師の顔をしていた。
「家族を守る為にモンスターと戦え! モンスターに仲間を殺させない様に止めを刺せ! 平和の為という綺麗事を言う前に自分が死なない為にモンスターを倒せ!」
車田教師の言葉を聞いて、気合を入れて、涙を拭いて、吐き気を抑えてモンスターに立ち向かう。
「今日が探索者としての初めての成果だ! 成果の証である処理された肉が家族に届くぞ! モンスターを倒して家族の食費を浮かせ!」
今回の探索で倒したモンスターの肉は食肉処理されて家族へ直送される。探索者として家族にモンスター肉を送り届けられて、家族に見習い探索者なった事を知らせる。残り処理食肉は学食で食べる事が出来る。
「お前達が殺したモンスターは食肉処理されて学校に卸されて学食なる! お前達の血肉となるモンスターだ! だから倒せ! 学食のおかずが充実するぞ!」
今回の探索訓練で生徒は経験を積み、学校は食肉が手に入る一石二鳥の学校行事である。
車田教師の激励を聞いて生徒達は武器を手に、魔法を駆使してモンスターと戦う。
「……今回の食肉量はAクラスがトップだな。どうやら賭けには勝ちそうだ」
教師陣の間で、どのクラスが多くのモンスターを倒し、食肉を学校に卸せるのかを賭けている。
もちろんトップのクラスの教師にも、学校側からボーナスが貰えるので教師も気合を入れて応援する。
モンスター討伐のダンジョン探索は午前中に終わる。
午後は討伐したモンスターを食肉処理する為に工場に運び、食肉処理の過程を勉強する為に工場見学をする予定だが、もう一つ訓練がある。
モンスターを討伐した場所での昼食を取る訓練。モンスターの死骸の匂いが蔓延する空間での食事。なぜそのような訓練をするのかというと学校の伝統らしい。
草食動物専門のダンジョンだが油断は禁物である。前回の探索訓練で事件が起きたので、学校に雇われた探索者達が周辺を警戒している。
生徒達はモンスターの死骸が匂う場所で昼食を取る。初の実戦とモンスターを討伐したショックと死骸の匂いで、胃が食べ物を受け付けない生徒が多い。もちろん普通に食事が出来る生徒も居るが少数である。
優も胃が食べ物を受け付けないので、日野から貰った手軽に栄養が取れる十秒〇ャージやカロリ〇メイトなどを食べた。
「……今日はキツイな。精神的に」
クラスのムードメーカー的存在の山本健斗も弁当を半分しか食べていない。
「探索者になる為とはいえ、オレもキツイよ……」
人の倍食べている中武修も、今日は小食だった。
「オレも現道みたいに食べやすい物を用意してくれば良かったよ。飲み物とか……」
気の良い相川誠二も食欲が無く、甘いお菓子をゆっくり食べている。
他のクラスメイトも食欲が無い様だ。特に女子達は食べる事が出来ない。
「先輩に『頑張れ』って言われながら貰ってね。本当に今日は助かったよ」
優は日野に感謝をする。そしてふと賞味期限を見ると、期限が一カ月前だった。……一気に日野の感謝する気持ちが落ちる。
そして市太郎も日野から貰ったカロリ〇メイトを食べている。……教えた方が良いだろうか? それとも黙っているべきか? と熟考する優。
「どうしたのだい? 優君」
「い、いやなんでもないよ。あ、ゴミは僕が一緒に捨てるから」
……優は黙り、証拠の隠滅を行う。市太郎なら賞味期限くらい「問題無い」と言うと思うが、自身の安寧の為に何事も無かった事にした。
優は市太郎からゴミを奪い、ゴミ捨て場で証拠の隠滅をした。自分が「良い仕事をした」と安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます