第54話 誘拐③

「このクソガキが! おとなしくしていれば良いモノを! 半殺しにするぞ!」


 キレる地雷が『会話に参加する』とは思わなかった優は、言動に後悔し恐怖しつつも綾乃の前に出る。


「痛い目に会いたいようだな……。おい、お前のスタンガン貸せ!」


 スタンガンを奪い、優に押し付ける。

 痺れと痛みが優の体を襲うが、すぐに収まった。


「……おい! バッテリー切れているぞ! キサマ舐めてんのか!」

「す、すいません」


 スタンガンの充電切れに助けられた優。しかし、中年男性は腰の棒状の物を手に取った。


「これはダンジョンで見つけた魔道具でな。この棒に魔力を通すと……」


 棒から電気が走る。スタンガンよりも強力な電気に優は後ろに一歩下がった。


「魔力の通す量で放電量が変わる。スタンガンよりも強力だぞ。……こんな風にな!」


 棒を若い男性に軽く当てると声に出せないくらいの悲鳴が部屋に響いた。棒を当てた場所には火傷を負っている。


「少し当ててやろうか? どっちが触りたい? それとも後ろの震えている嬢ちゃんが触りたいか?」


 優と綾乃に当てようとする中年男性。現在は一歩下がっている優の隣には綾乃が、綾乃の後ろにはエマが居る。これ以上は後退できないと判断した優は一歩踏み込んだ。


「……私が触ります。だから他の子達には」

「貴様の様な馬鹿がオレは大っ嫌いなんだよ!」


 棒に触るよりも、棒に当てるよりも、棒で殴ると決めて、大きく振りかぶって優を殴る。

 優は受ける覚悟を決めて縛られている腕で身を守り、エマは優の痛がる未来に恐怖で目を閉じた。

 魔道具による物理的な痛みと、同時に襲うスタンガンの数倍の痛みに耐える為に目を閉じて歯を食いしばる優。

 物理的な痛みが腕を襲った! そして声が出ないほどの痛みが……無い。スタンガンのような痺れる傷みすら無い。

 目を開けると、不思議そうに優と棒を見ている中年男性。


「……魔力の通しが悪かったのか?」


 と言ってもう一度、優を殴る。

 物理的な痛みで腕が痛いが、スタンガンのような痺れは無い。


「……壊れたのか?」


 と言って痛みで倒れていた若い男に軽く当てると、今度は悲鳴を上げて床を転がる。

 魔道具は壊れていないと判断したが、どうして優に対して電気が効かないのか不思議がる優達。


「それは魔道具で魔力を使っているからです」

「どういうことだ!」

「普通の人間には効きますが、特殊探索科の人達には効きません」


 綾乃が不思議がる優達に説明する。中年男性は「特殊探索科?」と聞き返したが、優は分かった。

 アンチマジック能力者だから。

 魔力を消す事が出来るアンチマジック能力は魔道具の魔力すらも消す事が出来る。

 棒状の魔道具から発する放電は魔力を利用している。だから魔力を消す事が出来るアンチマジック能力者には効かない。

 物理的なダメージと魔力を使っていない電気のスタンガンは効くが、魔力を使っている魔道具の放電は効かない。


「特殊探索科ってなんだ!? お前は何をした!」


 棒状の魔道具で中年男性が優に突き付けているとき、綾乃が、


「優様、エマさん。合図したら目を閉じて手で塞いで」


 二人にしか聞こえない様につぶやいた。


「さて、時間ですね。今です!」


 綾乃がポケットから何かを取り出す。しかし優達は目を瞑っているので見ているのは中年男性と床に倒れている若い男の二人のみ。

 部屋全体が光で眩しく輝く。綾乃が使ったのは光のみのスタングレネード。

 輝く光をまともに見た二人の目は、しばらく何も見る事が出来ない。

 そしてこの光は誘拐犯達を無力化するだけではない。

 光が消える瞬間、壁の一部が爆破されて重装備の者達が突入して、優達の前に立ち安全を確保し、誘拐犯達を捕まえた。

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