第30話 山田市太郎と新家先生の会話
ダンジョン管理省にある特殊探索班という一室がある。この部署には一人しか班員はおらず残りはバイトとして特殊探索科の生徒が在籍している一室だ。
その班員は学生と兼任しているので一室の主である山田市太郎はお茶を飲みながら、今回の事件の報告書を見ていた。
熟読中にノック音が聞こえ、部屋に入ってきたのはクラスの副担任である新家先生だった。
「よう、今回の事件。どこまで知っていたんだ?」
「何のことですか? 新家先生?」
「私も調べていたが、いろいろとおかしい点があった。案内人探索者は去年よりも多い。Cクラス探索者だけではなくBクラスの探索者もいる」
「それは管理省の仕事で、私はノータッチですよ」
「管理省にコネと強い権限を持っている特殊探索者はその程度、頼む事ができるだろう。それに一番おかしいのはお前が望月探索者と一緒にダンジョンの近くに居た事だ」
「偶然ではないですか? 望月さんと一緒に居たのは今後の活動の相談をしていたので」
「救援を求められて一目散にダンジョンに入っただろう、誰よりも早く。……お前は知っていたのか? 宝箱の罠が発動して生徒達に危険がある事を?」
「知りませんよ。知っていたら宝箱は発見される場所に探索者を置いておきますよ」
副担任新家メイの問いを躱すように答える市太郎。
「……今回は運良く助かった。現道が居たお陰でゴースト達から探索者を守ったらしいな」
「そうですね。彼が居てくれて助かりました」
「宝箱の危険を察知したのも現道だと聞いている」
「素晴らしいですね。優君の行動は現役探索者に高い評価を得た」
「お前は現道に才能があると言っていたな。その才能とはなんだ?」
新家は市太郎が同年代の優を贔屓している事を知っている。才能も有ると言っていた。しかし新家から見たら優には才能と呼べるものは無いと思っていた。その市太郎は新家の質問に答える。
「危険を察知する能力ですよ。私達探索者にとって一番必要なモノだと私は思っています」
「魔力量ではないのか?」
「普通の探索者はそうかもしれませんが、特殊探索者は魔力を持ちません。そして私達が探索するダンジョンは特殊ダンジョンです。防御力を持たない私達はダンジョンでは無力です。だから避ける訓練をします。そして危険を察知したら近づかない」
「……確かにそうだな。そしてその才能が現道には有ると?」
「優君はこのダンジョンで宝箱が危険だと察知していました。私には無い才能ですよ。リナ君も日野君にも無い優君だけが持っている才能です」
「……どうしてその才能をお前が知っているんだ? それも偶然か?」
「……偶然という事にしてください」
新家は疑問に思う。どうして市太郎は優の事を知っているのか? 長年の知り合いの様に癖まで知っていそうな感じだった。
「優君には危険を察知する才能の事を説明します。そしてその才能を鍛えて、特殊探索者のスペシャリストになってほしい」
「お前の言う通りになるか疑問だな。奴は怖がりだ」
「その程度簡単に克服できますよ。優君なら」
「……相変わらず知ったようなセリフを吐きやがって」
疑問は残っているが、市太郎は答えないだろうと判断して、新家メイは別れた。
「……これで良い。これからの事を考えたら大満足だ。この調子で頼むよ、優君」
本人しか聞こえない様に呟き、他の書類に目を通し続ける。
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