第29話 閑話③ 魔力至上主義者

 校長室で言い争いが起きていた。


「校長! どうして優秀な生徒に罰など与えたのですか!」

「その優秀な生徒がダンジョン内で他の生徒や探索者を危険に晒したからだよ。教頭先生」


 ダンジョン見学会での事件で、連夜と竜吾は探索者の指示を無視して宝箱を開け、トラップにかかって生徒達を危険に晒した。その罰としてトイレ掃除を命じられたが、それを不服という馬場教頭。


「彼等は魔力が多大で優秀な探索者となります! その二人に無駄な時間を使わせる訳にはいけません! 探索者として貴重な時間なのですよ!」

「魔力が多大でも、先輩探索者の指示を無視する人間は優秀ではない。探索者として貴重な時間を労使するよりも、人間として大切な事を学ぶ時間に使った方が良い」

「二人は優秀です! 魔力も一年でトップクラスなのですよ!」

「魔力以外は優秀ではないようだな。学力テストも中より下の様だな」

「学力テストなど探索者には関係ありません! 私達は魔力が豊富な生徒を優秀な探索者にする為に! 魔力量が多大な生徒こそが優秀な探索者になるのですから!」


 馬場教頭は優秀な生徒は魔力の量だと言い、それ以外は関係ないと教師にあるまじき言葉を発する。


「馬場教頭。いい加減にしたまえ。ダンジョンに参加した探索者達も二人の行動に苦情が来ているのだよ。探索に参加した卒業生も『彼等に罰を』と要望しているのだから」

「しかしですね、罰を与えたら生徒のやる気が損なわれ、その両親から苦情が……」

「生徒の両親からの苦情は来ていない。本来はトイレ掃除よりも停学という声も出ていたのだよ。しかし初ダンジョンということだから軽い罰で済ませている」


 馬場教頭が「ぐぬぬ……」と反論できないでいる。


「それに比べて探索者達を助けた特殊探索科の生徒は素晴らしいと言っている。助かった探索者のギルドの長から『礼を言いたい』と求められている」

「あのような魔力ゼロの者達に礼を言いたいなんて、弱小ギルドの考えは分かりませんね」

「弱小? 日本大手のギルドが弱小なら、君が思う弱小ギルドはどんな部類に入るのか聞いてみたいのだが?」

「そ、それは……」

「我が高校にも卒業生が多いギルドだよ。そのギルド長が礼を言いたいとの事だよ。分かるかい? 罰を負った二人は我が校の評価を落したが、特殊探索科の生徒が評価を元に戻してくれたのだよ」

「しかしですね、魔力量ゼロの生徒など……」

「君は去年から特殊探索科に不満を口にしているが、君の言葉はいささか聞くに堪えない。そんなに特殊探索科が嫌いなら他の学校に移動するか? 私は喜んで力を貸すよ?」

「い、いえ! 私はそのような事は……」

「では罰はトイレ掃除で納得してくれたな。まだ反論するならトイレ掃除ではなく停学にするぞ?」


 校長は睨みつけると、馬場教頭は退出した。そして誰も居なくなった校長室でため息を吐く。

 馬場教頭は魔力が多い者が優秀だと思っている魔力至上主義者だ。

 魔力至上主義者とは魔力量で人を差別する傾向があり、魔力が必要であった時代の名残である。

 ダンジョン発生時当初は魔力量が多い者が必要だったが、魔力という得体のしれないモノを嫌悪する者達が多かった。だから政府は魔力を多く持つ者達を優遇した。その優遇した結果が魔力至上主義というモノが生まれた。

 現在も魔力至上主義は少なくない。去年までは教師達も魔力至上主義者が多かった。

 しかし去年、新しく特殊探索科が出来て、魔力至上主義者の教師や生徒達は反対し、特殊探索科の生徒に嫌がらせ行為を始めるが、山田市太郎に反撃を食らって生徒は退学または転校し、教師は異動や退職に追い込まれた。

 そして残っている魔力至上主義者は馬場教頭を含む教師が数人になり、生徒は教育のお陰で魔力至上主義を思い直して数は少なくなった。

 魔力至上主義者の教師が少なくなり、職権乱用されていた他の教師達からも追い込まれつつある探索者高等学校の魔力至上主義者達。

 それでも特殊探索科に対して馬場教頭は嫌がらせを続けているが、山田市太郎に反撃を食らっている。

 今回は魔力至上主義者の担任の生徒が起こした事件で、生徒には罰を、担任も叱咤されて終わったが、馬場教頭が不服だと乗り込んできて、返り討ちにした校長。

 これを機に馬場教頭が静かになってくれることを願うが、今までの行いを省みて無理だと思った。

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