第13話 閑話① 特殊探索科を嫌う者

 入学式後の特殊探索科の説明会をする前、山田市太郎は校長に呼ばれていたので、校長室で手早く用事を済ませようとする。


「校長! どうして特殊探索科の予算を増やしているのですか! 私は反対したでしょう!」

「馬場教頭、特殊探索科は他のクラスに比べて成果を上げている。当然ではないか」

「成果なら他のクラスも上げています!」

「特殊探索科に比べれば微々たるモノだ。それに特殊探索科だけではなく、他のクラスの予算も増えたろう、どうして怒っているのだね?」

「特殊探索科なんて魔力量ゼロの欠陥探索者! いえ探索者と呼ぶのもおこがましい! そんな者達にどうして優遇しているのですか!」


 校長室の前で立ち止まる市太郎。ドアの外まで聞こえる声にため息を付く。


「馬場教頭、何度も言っているだろう。特殊探索科は特別な探索者だと。欠陥探索者なんて暴言を言う者は君くらいだぞ! 訂正したまえ!

「魔力量ゼロは欠陥探索者以前に人間として欠陥でしょう! 魔力は人間には必ず宿るモノです! それがないのなら人間以外です!」

「馬場教頭! いい加減にしたまえ! 特殊探索科はダンジョン探索で成果を上げているのだぞ! 他にも魔力病の研究にも役立っている! 君が教えているクラスよりも立派に成果をあげているのだ!」

「しかし!」

「それに卒業した探索者からも評判が良い! 君の教えを受けた卒業生はどうだ? 反社会的な探索者が多いと聞くぞ!」

「そ、それは、偶然です。私のせいではありません……」

「馬場教頭。君の態度は教師としての品性を欠けている。保護者からも苦情がきている事を忘れたのか?」

「その件については保護者と生徒の誤解で……」

「他にもイジメ問題も発覚しただろう? イジメを受けた生徒は学校を転校して裁判を起こし、イジメた生徒を訴えているだろう? 君もイジメを黙認していた事で訴えられているはずではないのか?」

「そ、その件も誤解です。私はそのような……」

「馬場教頭。私の判断で特殊探索科の予算を増やしたのではない。高校の卒業生や他の探索者達からも支援が有ったからだ。だからその支援を会議で予算増額に回した事は説明しただろう。ついでに他のクラスも予算を増額した。何が悪いのだ?」


 市太郎は思う。馬場教頭の表情は怒りを堪えて顔を真っ赤にしているだろうと。そしてその答えは直ぐに分かる。


「要件は済んだか? 私には用事が有るから退出してくれ! それから今年は去年の様な馬鹿げた嫌がらせを特殊探索科に行わない様に」

「……失礼します」


 ドアの前で馬場教頭と対峙した市太郎。

 市太郎の考え通り馬場教頭の顔は真っ赤になっており、今にも怒りで頭から湯気が出そうな勢いだった。そして市太郎と別れ際に馬場教頭が、


「私はお前達など認めん」


 と市太郎にだけしか聞こえない様に言って校長室を後にした。


「……まったく馬場教頭にも困ったモノだ。少し待たせたようだね、山田君」

「いえ、ドアの外で激しいツッコミ漫才を聞いていたので待っていたという感覚はありませんでしたよ。ツッコミが激しい校長先生」

「それなら馬場教頭はボケ担当かな? 確かに彼にはとぼける才能はあるが、ボケの才能はない。逆に私がボケたい気持ちだよ」

「聞こえないフリのボケですか? 確かに馬場教頭は煩いですので聞いたフリが一番楽ですが、ネチネチと聞くに堪えない話を無視する事が出来ればですが」

「なに、馬場教頭程度の会話を流せなくて、探索者高等学校の校長など出来んよ。この世にはアレ以上の者が居るのだから」

「そんな魔窟には近寄りたくありませんね」

「それよりも入学おめでとう、山田君。そして教師として頑張ってくれ」

「ありがとうございます、精一杯頑張ります」

「それにしても生徒のクラス決定権だが、見事なほどにDクラスは馬場教頭派に偏ったね」

「一つに纏めた方が良いと判断しました。それ以外のクラスは基本的に平等ですよ」

「アンチマジック能力者はAクラスに集まっているが?」

「一年で二人しか居ないので纏まった方が良いでしょう。私も優君と一緒の方が教え易いですし」

「まあ、山田君や特殊探索科の生徒には多大な恩があるから四の五の言わないよ。今年も頑張ってくれたまえ」

「今年は去年よりもいろんな事が起きてご迷惑をお掛けすると思いますが、その分頑張りますよ」

「……去年以上に? 胃薬よりも胃が持つか心配になるな」

「それで相談とは?」

「一年のダンジョン探索訓練の件だよ。生徒の護衛する探索者が去年よりも多いので、ふと気になったんだよ。ダンジョン管理省でも護衛を雇っていると聞いているし」

「万が一の事に備えているだけです。もしも生徒の護衛料に不満があるのなら、私が護衛料を出します」

「……ふむ。護衛料は気にしないで良い。それよりも護衛する探索者の質を考えた方が良いな。馬場教頭の推薦者は外しておこう」

「よろしくお願いします。では私は失礼します。これから特殊探索科の説明会があるので」

「では探索訓練の件は後日ゆっくり相談しよう。ご苦労だった山田君」


 山田市太郎は校長室を出て、特殊探索科の生徒が集まる実習室に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る