閃光のサンダーバード

牙崎鈴

00  雷光の翼

[次元探知機、誤作動を確認。直ちに原因を解明、及び、改善を求める。]

「了解。整備班、一度機体を分解し、検査を行うぞ。」

「了解。」

 年輩の男がトランシーバーを片手に、とある機体をほかの人と分解作業を行っていた。

 ヘルメットを頭に、青の作業服をつけ、口ひげを少しはやした男。

 目元には、徹夜していたのか、隈が少し見えるほかの人も、同じような格好を、否、数人だけ白衣をつけて、分解作業に当たっていた。

「ブースタ―の性能に異常が出ています。」

「ただちに調整を行わせろ。」


 そこから数日たち、


[次元探知機、異常を砲塔から異常を確認。直ちに原因を解明、及び、改善を求める。]

「了解。砲塔が焼き切れかけている。すぐに、開発者側にまわせ。」


 さらに数日たち、


[次元探知機。高周波ベルト付近から異常を確認。直ちに原因を解明、及び、改善を求める。]

「くそ。またかよ。アームが切れかけているぞ。」

 ついにはこぶしを機体にぶつけてしまう男。

 それを宥めようと別の白衣を着た男がやってくる。

「まあ、それ以外のものは改善できたからいいだろう。」

「よくねえ。パイロットがだれかを考えると、確実に完ぺきにしねえと、そいつも同じように死ぬぞ。」

「まあそれもそうだが、今の我々では、技術も何もかも乏しいし、完璧にはできないのも仕方がない。」

「だからってこのままでいいわけがないだろう!!」

 ついに切れて大声で怒鳴り散らしてしまい、ほかの整備班がおびえたように、びくりと肩を震わせてしまった。。



 そのおかげか、



[次元探知機、異常は確認されず。]

「……鶴の一声でこうなるとは、もはや、個々の整備班長は恐ろしく見えてきたぞ。」

「そ、そうか。なんか、悪かったな。」

 ばつが悪そうに、男がうつむいていると、アラームがけたたましく鳴り出す。

『三角陣形で進行する敵影を捕捉。直ちに出撃を開始せよ。』

「い、いきなり実戦させるのか。しかも完成したばかりだというのに。」

「かといって兵力が足りない。仕方ないだろう。一応操縦法はすべて、念入りに訓練させたが。」

 不安という空気が、倉庫の中に立ち込め、中には、もう少し待たせるよう、上に願い出に行こうとするものが現れだす。

 当たり前だ。

 いきなり戦場に出せば、ものの数分で、敗れるのは目に見えて明らかなのだから。

 しかし、情報によれば、敵は、およそ三万。

 対してこちらは、およそ二千ほど。

 なるべく多くしなければ、いずれ、奴らが破壊しに来る。


「行かせろ。」



 誰もが声の主のほうへ目を向け、驚愕する。

 今、何と言った。

 死にたいのか。

 そう思えるような無邪気そうな声音で。

 藍色のパイロットスーツを着込んだ、この国の、姫君が言ったのだ。

 ここ、アマクロス帝国第三王女、リアナ・クロスが。

「ひ、姫様、それでは死にに行くようなものですぞ。」

「だから何だというのだ。今ここで指をくわえてみていればここに軍人としてきた意味がなかろう。」

「し、しかし。」

 なおも反論を述べようとする整備班の肩に手を置き、穏やかな顔を向け、言った。

「安心せい。私は誓ったぞ。この国を守り抜くと。それをないがしろにするな。」

「っ!」

「それでも反対するのであれば、王女としての権限で、命じよう。今すぐ、出撃させろ。」

「……了解。」

 機体に乗り込む、まだ二十半ばほどの姫君を、それでも不安そうに、見てくる人々に、スピーカーから、ゲートに移すよう、命令を受け、しぶしぶと、出来上がったばかりの機体を、クレーンで移動させる。

「本当に大丈夫か。」

「いくら訓練を受けたとはいえ、機体に乗ることが初めてだというのに。」

「心配するな。なんたって、姫君に合わせて造ったのだから。戻ってくることを信じていかせるしかないだろう。」

 ただ一人、姫君のことを信じて待とうという人が一人。

 開発主任を担当するフェイサー・ランツだ。 

 ――― 一方で、

『お前ら、せめて、初陣する姫君にふさわしいやり方をしろ。俺たちにできることはそれだけだ。』

 スピーカーからの声に、コントロールルームを担当する人は力強く、うなずき、力強く報告をする。

「駆動系および、次元装置に異常なし!」

「弾薬補充完了済み!高周波ベルト、帯電させます!」

 モニターに映る機体の左右につけられた、分厚く、ベルトのようなものを作る際に行った溶接部分。

 そこが、青白く、ほのかに輝きだす。

「第四ゲート、開門!」

 重い、重低音のある音とともに、ゲートの扉が開き、外の世界の光が差し込みだす。

 光源となるものは、多くが日の光、だが、爆撃音とともに、迸る閃光が、時々白く染め上げる。

「カタパルト、作動するまで、10秒前!」

 機体に触れるレールのような銀色の鉄骨が、ゲートの外へ展開する。

 機体重量、わずか数十トン。高さは、約、5,400ミリほど。

 アマクロス帝国初の武器、高周波ベルトを機体の底から、役10センチほど上につけ、副主砲の重機関銃を左右に2つずつ取り付け、挟み込むように、狙撃銃をつけた機体は、空中飛行型戦闘機を思わせる。

 形状は、三角形。

 メインカメラ上部に攻撃を防げるよう、スコープのついた防具がつけられている。

 全長は、機体の本体だけで、5,000ミリほど。

 機体識別名:ライゲキ 別名:雷光の翼 もしくは、



 閃光の、サンダーバード


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