第7話 高すぎる素質

「試験の前に、この魔晶球に触れて下さい。魔力が低い者は魔法学院の門戸を通ることは許されません」


 王立魔法学院の入学試験に臨んでいた。資質があるとされる者を各地から集めて毎年冬が終わる頃に、試験が行われる。合格率は一割にも満たないと言われていた。

 まず、魔力がどの程度あるかを測る試験。これで半数は落とされるらしい。


「受験番号二〇三番、魔晶球に触れなさい。合格ならば赤く光ります」


 自信がないといえばウソになるが、前世の記憶に半分は魔族の血が流れているのだ。魔力も高いに決まっている。何の気もしないで、魔晶球に触れた。ひびが入り真っ赤な光が迸る。

 なにかおかしなことをしたか。ただ触れるだけだよな。


「えええ、魔晶球が魔力に耐え切れず、壊れてしまった?!」

「やっぱり不合格ですか?」

「いえいえ、合格ですが……新しい魔晶球を用意しなければ……」


 ざわざわと試験会場が沸き立つのを他所に二次試験の会場の実技訓練場へと向かった。


「二〇三番、今から実技テストを行います。あのかかしに向けて、一番強い魔法を放ちなさい」

「合格の判定基準を教えて下さい」

「ひとまずは隣の彼女のようにかかしを壊せれば合格です」


 隣では銀髪金眼の美少女が魔法の矢でかかしを壊していた。これが二次試験だというのに驚きを禁じ得ない。的当てくらい誰だってできるだろう。


「もし、強力な魔法で、会場を壊してしまった場合はどうなるんですか?」

「会場は強力な結界で覆われています。ヨルン学院長の魔法ですら壊せないと言われています」


 ヨルンが壊せない……か。魔力が強い半人半魔の力ならどうだろうか。


「天を貫くは雷鳴の光――――――地に落ちるは断罪の光――――――ライトニングジャッジメント‼」


 空が叫び声を上げて、ガタガタと地面が揺れる。神罰ともいえそうな雷光がかかしを中心に空から迸った。実技演習場の天井には穴が開き、かかしがあった場所は地面が蒸発している。

 慌てふためくのは先ほど話した試験官だ。前代未聞空前絶後の事態らしい。


「君……名前は?」

「ミミ・ポートリヤです」

「少し待っていてください。学院の上層部と話をしてきます」


 その場ですることもないので、無詠唱で炎の小鳥を作って遊んでいると銀髪金眼の将来は美人になりそうな少女が話しかけてきた。


「的当ての試験で、上級魔術を使うなんて……バカじゃないの?」

「バカで結構だよ。それに上級魔術じゃなくて第一種禁忌魔術さ」

「力の強さを誇示する人は私絶対に友達にはならないわ」

「もう合格の気でいられるのかよ」


 なんとなく見知った顔のような気がする。だが、前世の記憶は曖昧過ぎて、あてにならない。

 だが、本当に美しい少女だな。女に転生しなければプロポーズしたいくらいだ。いや、待てよ。女子が女子を好きになることだってあるらしいし……。考え込んでいるとその少女にデコピンをされた。


「話を聞いてるの? 私はルディアよ。あなたの名前は?」

「ああ……――えと、ミミ・ポートリヤだよ」

「ミミ、あなたには絶対に負けないから」

「勝った負けただけが世の中のルールじゃないと思うけど?」


 そこに試験官が再び現れる。後ろには見覚えのある人物が立っていた。

 ヨルン・リンフォード――裏切り者の魔導士だ。美しい赤い色のローブを着ている。ただのローブではなく金糸や銀糸で縫われており、恰幅の良くなった身体を覆い隠していた。


「彼女が大魔法を使ったというのか?」

「ええ……学院長、下手をしたら第一種禁忌魔法を使ったのかもしれません」

「その判断は私がする。お前たちは下がっていろ」


 値踏みをするような下卑た目線を向けてくるヨルン。こちらが怒りと悔しさと悲しみのグチャグチャの絵の具のような感情を抱いているとは知るはずもない。

 今、この場で始末するのもやぶさかではなかった。だが、父と母となった優しい人たちがいる。それは大きな枷となっていた。


「名前は? いや答えなくていい。半人半魔か……穢れている。幾ら強い魔力を持っていようとも、特別扱いをするつもりはない」

「僕は……――入学できるのでしょうか?」

「無事に卒業できると思うなよ。穢れた半人半魔が‼」


 勇者パーティーにいた頃から、魔族を毛嫌いしていたのを覚えている。魔族を殺す時の嗜虐的な笑みを思い出す。ただ、灰色の肌や赤い瞳など違いはあるが同じ生き物だと何度言い聞かせたか分からない。人間至上主義者、それがヨルン・リンフォードだ。


「(必ず……その首を落としてやる)」


 その後、「合否は一週間後に手紙で通知する」と言われて、王都郊外のポートリヤ家へと帰った。既に合格気分のラナとルルはよちよち歩きのフレイヤと共にラピッドラビットの丸焼きなど普段とは考えられないご馳走を準備してくれている。


「お父さん、お母さん、いつもありがとう」

「ミミ、きっと合格するから……一週間後を待ちましょうね」

「そうだ。知り合いの試験官に聞いたが派手に活躍したらしいしな」


 ポートリヤ家での和やかな夕食の時間は過ぎていった。



――――――――一週間が過ぎる。魔法学院合格の書類が届いた。


https://kakuyomu.jp/works/16817330649705309002

カクヨムコン参戦作品になります。完結&ハッピーエンド保証です。

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