113 鉱物買い付け
冒険者ギルドで移動の手続きを済ませ、依頼札を軽く眺める。
薬草とポーションはこっちの方が高いなぁ。
二倍ぐらい違う。
それだけ需要が高いってことか。
……王都で集めてこっちで売る?
移動の手間を考えるとそこまで儲かるわけでもないかな?
「あっ」
すごい金儲けの方法を考えた。
というか思い出した。
ま、まぁ……暇な時間があったらにしよう。
そうしよう。
後は魔物退治とか偵察とかの依頼が多い印象。
パーティ勧誘のチラシも多い。
とはいえここで依頼をこなす気はないので見るだけにする。
次は商業ギルド。
ルフヘムが滅んだ影響は当たり前にこちらにも及んでいるので食糧が高い。
なのでいろいろと売る。
マジックポーチを持っているというと空き倉庫に連れて行ってくれた。
この辺りは商業ギルドの登録証での信頼度のおかげ。
冒険者ギルドみたいなわかりやすい等級はないけれど、信頼値のようなものが打刻されているので、初めての場所でもそれなりに融通が利くらしい。
とりあえず野菜や穀物で倉庫をいっぱいにする。
お酒は売らなかった。
王都とドワーフの国に売る分だけでけっこうな量になっているので他でまで売っていられない。
お金は商業ギルドの銀行に入れておいてもらうことにして、鉱物の買い取りをお願いする。
ギルドの人に凄い喜ばれた。
お金を払うだけだと不安だからね。
鉱物がたくさんあるのだから鍛冶師もたくさんいる。その作品もある。ウィンドショッピング気分で武器防具を見せてもらいつつ、気になったものをいくらか買う。
使わなければ王国で売ってもいいし。
『ゲーム』にある物の方が基本的には良品なのだけれど、デザインの面で目新しいものがあって面白い。
それなりに商人ぽいことをしたと満足してから商業ギルドを出る。
そのまま宿に帰るか観光みたいなことをするか。
商業ギルド周りにある商店街みたいなものを見ながらぶらぶら歩いていて、ふと、先からくる一団が気になった。
全員がフードで顔を隠しているのも怪しいし、その隠し方に見慣れたものを感じた。
ていうか、フェフたちがああいう隠し方をしていたと思いいたり、さっと近くの店を覗くふりをしてその一団が通り過ぎるのを待った。
気になる。
通り過ぎざまに研ぎ澄ませた感覚が知っている気配を嗅ぎ取ったような気がする。
追いかけてみることにした。
一団は人目を避けるように狭い道に入り込んでいく。
考えてから、少し間をおいてその道に入る。
『忍び足』と『隠密』が大活躍して、気付かれることなく一団の後に続くと、やがて彼らは寂れた区画に辿り着いた。
王都の貧民区みたいな雰囲気だ。
どこにでもあるんだなと思いつつ追いかけていると、彼らは一つの建物に入っていった。
さすがに中にまで入るのは難しい。
とりあえずその建物の屋根の上に移動した。
††ナディ††
鬱陶しいフードを脱いで息を吐く。
深呼吸したいが、どうせ入ってくるのは砂と鉄の臭いが強い空気だ。ナディは顔をしかめて細く呼吸を整えるにとどめた。
あの時、磔にされて晒されるという辱しめを受けた後、仲間に助けられてルフヘムを脱出した。
民衆の手に世界樹とルフヘムの政治をという熱意をもって行動していたというのに、彼らはナディの失敗だけを見て仲間ではないと言ったのだ。
そんな彼女でもまだついてきてくれる仲間がいたので一緒に国を出たのだが、まさかその数日後に国が亡ぶことになるとは思わなかった。
その衝撃はナディたちの心を強く揺さぶり、しばらく茫然自失とさせていたが最近になってようやく何かをしようという気になって来た。
そんなときにとある者たちの接触を受けて、ザルム武装国へとやって来た。
同じ魔境を切り開いた国でありながら、ルフヘムとザルム武装国ではこんなにも雰囲気が違う。
本当にこの国を……?
ザルム武装国のことはナディだって知っている。
騎士修行の一環で数年滞在したこともある。
結局、この国のことは好きになれなかったが。
そしてまさか、またこの国に戻ってくるとは思わなかった。
「お待たせしたかな?」
砂埃のたまった廃屋の中で待っていると、いきなりその声が聞こえてきた。
ひどく低く、そして荒れた声だった。
ナディたち以上にフードを深くかぶり、全身も長いマントでしっかりと隠している。
「貴様は……」
「約束通りに来ましたね」
「やはり、姿を見せる気はないのか?」
行く当てもなかったナディたちの前に現れたのは、この全身を隠した人物だ。
声の様子からして男だろうということはわかるのだが、それ以外は何もわからない。
怪しい。
怪しすぎるのだが、こんな者の言葉に釣られてしまうほどに、ナディたちは精神的に追い詰められていた。
「重要なのは私の姿ではないのでは?」
「貴様は……本当に我々に……」
「ええ、この国の主にして差し上げましょう」
あまりにもあっさりと言い、ナディの周りがざわめく。
ナディ自身も内心ではざわめいていたが、なんとか表情を殺し続けた。
「そんなことが本当に可能だと?」
「むしろ、この国は内部から奪うのはそう難しくもないのでは? ご存じでしょう?」
「お前が言っているのは玉座決闘のことか?」
「左様」
玉座決闘。
かつて犯罪国家と呼ばれていた時代を革命によって塗り替えたこの国は、『国を変えたいと思うならば武によってその意を示せ』という言葉を掲げている。
この言葉は今も生きており、武闘大会で優勝した者は王位を求めて時の王に挑戦する権利を与えられる。
いつまでも保持できるものではなく、その場で申し込まなければ権利は消滅するのだが。
「……しかし、それは簡単な話ではない」
武闘大会で勝たなければならないというのが、ナディたちには難関だ。
この国で修行していたことがあるだけに、武闘大会の事情にも通じている。
ここ最近の常連出場者には金等級冒険者もいる。
さらにその金等級冒険者に勝利し続けている鋼の乙女もいる。
あの二人に勝てばいいんだとは、さすがのナディも楽観的にはなれなかった。
「心配ご無用」
フードの人物は笑っているのか、全身を震わせている。
「そんな子供でも知っていそうなことを言うためだけにあなたたちを読んだのではありませんよ。ちゃんと、あなたを強くする手段は持ってきています」
「なに?」
「これですよ」
そう言って、フードはマントの中からそれを出してナディたちに見せた。
「これがあなたを強くします。あの鋼の乙女よりも」
†††††
「む?」
すんと鼻を鳴らす。
知っている臭いが嗅覚を突いた。
血だ。
どこからといえば自分の足元……廃屋からだ。
ああ、やっぱりそっち系の騒ぎになっちゃうのかと俺は唸った。
覗く?
覗かない?
正直関わりたいわけじゃない。
俺に恨みがあって復讐で……とかだったら困るからここまで尾行してみたっていうのが一番大きな理由だし……。
「よし、知らないふりをしよう」
いるっていうことだけ念頭に置いて……うん、とりあえずそれでいいや。
そうと決めたらこんなところにいる理由もない。
スタコラサッサと逃げるのだった。
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