104 宝玉の行方


 お婆さん……いまさらだけど里長が語る。


「同じものかどうかは知らんが、その名前の物が昔うちにあった」

「昔?」

「いまはない。里を出た者が持って行った」

「おおう」


 ゲット? と期待していただけにがっくり来た。


「ええと……その方がどこに行ったかは、ご存じで?」

「知らんなぁ」


 ですよねぇ。


「叡智の宝玉とは興味をそそる名前だ。それはどのようなもので?」

「わからん」


 里長は答えて笑った。

 どうやら手にしているコップには酒が入っているみたいだ。


「わからんから旅の駄賃にしろと言って渡したからな」

「渡した? ということは?」

「うむ。わしの妹じゃ」

「では、お名前は?」

「ピナじゃ」

「ピナさんですか」


 この里の人で魔境を抜け出ているなら名前を残していそう。

 王国か小国家群に流れ着いていたらいいなぁ。


「まぁ頑張って探してみます。それで……」


 と、俺はイリアを見た。


「イリアはどうするんだい?」

「私は……サマリナ様を一人にできませんから残ります。それに……」


 それに?


「少し鍛えてやろうと思ってね」


 言ったのはヒスだ。

 にやりと笑う彼女はなにかを企んでいそうだ。

 どういうことなのかとイリアを見ると、なぜか彼女は俯いた。


「……彼女に変なこと吹き込まないよね?」

「変なことなど教えるものか。見込みがあるから鍛えてやるだけだ」


 それならいいんだけど。


「それより、商人をしているというのならもしかして商品を持っているのか?」

「え? まぁ……食糧だけど」

「なんだ食べ物か。それも興味あるが、また来るのなら手に入れて欲しいものがあるな」


 そんな感じでヒスたちの要望を聞いたり、俺が持ってきている野菜を出してみたり、それの料理方法で炒め物とか鍋とか言ったら作ってみることになったり、その流れで酒を出してみたりで、気が付けば里全体を巻き込んだ宴会みたいになってしまっていた。


 このまま酔い潰せば今夜は襲われないかなっていう目算もあったりしたんだけど……それはとっても甘かった。

 ここの人たちは酒も強い。

 再び、『精力強化+1』が悲鳴を上げた。

 ていうか+2になった。

 そっかぁ、こういうのも使えば育つのか。


 そして翌日。

 イリアとサマリナの二人に別れを告げ、オクの里を出た。

 大雑把に西に向かって移動。

 特に急ぐ理由もない。

 サマリナから状況を説明するための手紙を預かったので王都には向かわないといけない。

 あ、そろそろドワーフの国に酒を卸しにいかないとだめか。

 きっともう飲み切ってるんだろうなぁ。

 どっちに行くかは王国のどこに出るかで考えよう。

 日中は襲い掛かってくる魔物をひたすら倒しながら進み、夜は動かないことにした。


『樹霊クグノチ』を使っていたら、できることが増えた。『夜魔デイウォーカー』の『血装』みたいな派生スキルだ。

『植物操作』という。

『樹霊クグノチ』を展開して木とかに突き刺すと、それを操作することができる。

 地面に刺して雑草を繁茂させたり、木に刺して成長させたり形を変えたり。

 変化にはちょっと時間がかかるから戦闘中には使えないけれど、野営をするときには便利だ。

 いまも、木の一つを成長させて以前にダンジョンで利用したツリーハウスを作っている。


 なんだかすごく久しぶりに感じる一人の夜。

 寂しさよりも開放感の喜びの方が大きい。

 お祝いのステーキ重を食べてから『ゲーム』をつつくと、毛布にくるまって寝た。


 すがすがしい朝。

 朝食を済ませてひたすら移動。

 夜になったらツリーハウスを作ってしっかり休む。


 そういうことをしばらく繰り返すと向かう先で騒々しい音が聞こえてきた。

 戦闘音?

 木に登って上から観察すると森の切れ目が見えた。

 音はそこからしているようだ。

 いくつか黒い煙が昇っているのも見える。

 開拓団と魔物が争っている?

 木の上をぴょんぴょんと移動して見えやすい位置を求めてさらに近づく。急いでいなければこういう移動は『軽妙』だけでこなすことができる。


「あ」


 見えた。

 やはり戦闘音だった。

 戦っているのは人間と魔物。

 開拓団だろう。

 周りには切り倒した木々が積み上げられたりしていた。

 大勢の兵士や冒険者たちがいる。

 人間側が五十で魔物側が百ぐらいだろう。劣勢だ。

 魔物は、『鑑定』ではオークと出ている。

 だけどただのオークでないのは、見ただけではっきりとしていた。

 全員が黒に統一された鎧みたいなのを着ているのだ。

 ところどころに赤い筋が浮いて、けっこう邪悪な雰囲気だ。

 なんだろうあれ?


「う~ん?」


 ぐるりとオークの群れ全体を観察していると、後方に控えている本陣のような場所を発見した。

 なんでそう思ったかというと、そこに明らかに雰囲気の違うオークが二体いたからだ。


『オークキング:野生のオークキングが現れた。コマンド?』


『オークハイプリースト:オークにも神は等しくその光を与える』


 黄金の鎧を着こんでいるのがオークキング、爬虫類の革で作ったらしき法衣っぽいのを着ているのがオークハイプリーストだ。

 オークハイプリーストはずっと祈っているような姿勢を維持し、オークキングはときどき戦場全体に届くかのような咆哮を放っている。

 その二つが合わさってオークたちを強くしているみたいだ。


「このままだと負けるかな?」


 負けるっぽいなぁ。

 数で負けているし、装備の質でも負けている。

 人間側はいったん退却するつもりのようだけれど、それでもかなりの被害が出そうだ。

 オーク側の士気が高く、そう簡単には逃がさないという獰猛な戦意がここからでも感じられる。


「よし……」


 と、覚悟を決める。

 それに……あのオークたちの状態を起こしているだろうスキルが手に入ったらいいなと思っていたりもしてる。




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