99 迷子からの


『ロック:巨大猛禽類の代表格だよね』


 だよねって言われても。

 相変わらず『鑑定』の説明文が自由だ。


 なんとか巨鳥の解体を始めた。

『樹霊クグノチ』の触手の一つで巨鳥を持ち上げ、もう一つに解体用のナイフを持たせて腹を裂いて内臓を落とす。

 洗いたいんだけど……。


「任せたまえ」


 サマリナが魔法で水を出して表と中の汚れを洗い流し、肉を冷やしてくれた。


「ロックの羽毛は取っておけるかな?」


 マジックポーチは余ってるから問題なしだというとサマリナがうれしそうに笑った。


「それはよかった。戻ったら魔法使いギルドで買い取ろう」

「報酬は三分割でいいんで、羽根をむしるのは手伝ってくださいよ」

「むむ……」


 こんな巨大な鳥の羽むしりを一人でやらせるつもりだったのかと言いたい。

 お姫様抱っこをされて落ち込んでいたイリアも、ようやく復活して三人で羽根をむしっていく。

 さすがに陽が落ちるまでに全部は無理だったので、今食べる腿の部分だけはきっちりとむしり取り、切り落とすと続きは明日と羽毛を入れているのとは別のマジックポーチに収める。


「……さて、この量をどう料理します?」

「丸焼きだな。それしかない」

「すいません。焼く以外はちょっと……」


 サマリナはそれがロマンだと、イリアは料理に自信がないと、それぞれ表情で物語っている。

 焼くのに反対はないけど……。


「……ちなみに調味料は?」


 こんなデカい腿肉を焼くなら、それなりに塩が欲しいけど。

 後は胡椒か香草。

 香草はこの辺りを探せば少しは見つかるかもしれないけど。

 俺の質問にサマリナはイリアを見、彼女はマジックポーチから塩の入った袋を出してきた。

 俺も非常用の調味料は持っているけど……。

 元の予定が危険のほとんどない道だったから手持ちはそれほどじゃない。


「使い切る勢いでやらないと不安かな」


 なにしろ魔物肉は食べるのも調理するのも初心者だ。

 生部分がないようにしっかりと焼きたい。

 勢いでここまで来たけど、帰るのは慎重にする必要があるかもしれないし……。


「ていうか、この調子でまた攫われるかもしれないし」

「あはははは。ごめんごめん」


 さすが慣れてるだけあって挫ける様子がない。


「くっ、私の備えが甘かった」


 うん、イリアは知ってたんだからもうちょっと備えた方がよかったかもね。


「だが、これを食べないというのはないぞ」


 と、サマリナは力説する。


「魔物食はな、魔力を育ててくれるんだぞ」

「「え?」」


 サマリナの発言に俺だけじゃなくイリアまで首を傾げる。


「食べれば食べるだけ育つんだ。いいぞ」

「ええ……?」


 イリアを見ると、彼女も俺を見ていた。

 お互いに「聞いたことある?」と目が語っている。

 その時点でそんなことは聞いたことがないという結論が出てしまう。


「だからなんとしてでも食べねばならんのだ!」


 そう熱弁するサマリナの目がすごく輝いている。

 いや、比喩じゃなくて本当に。


 う~ん、これはなにかありそう。


「とはいえ、塩の量は限られているし……」


 これは、仕方ないかなぁ。


「ええと……これからやることは秘密でお願いします」

「わかりました!」

「お、なにかな?」


 了承は取ったということで『ゲーム』を起動。

 ロックの腿肉をゲーム内に入れて、クラフト台に。

 あ、手紙が来てる。

 確認したいけど……後で!


 まずはクラフト台でメニューを出してみる。


《新しいレシピを手に入れました》


 お、いけそう。

 増えたのは何かな?


 魔物鳥のから揚げ、魔物鳥の焼き鳥、魔物鳥の親子丼、魔物鳥の……。


 魔物鳥の名前を冠した鳥料理がずらりと並んだ。

 じゃあとりあえず、から揚げで。


 というわけではいドン!


「「うわっ!」」


 突然に現れた大皿とそれに乗った山盛りのから揚げに二人が驚く。

 それだけだとさすがにお腹がもたれるので野菜スープとパンも添えて。


「な、なんですかこれ?」

「……興味深い」

「はいはい。秘密なんで気にせずにこれを楽しんでください」


 というわけで食事。

 出来立て熱々のから揚げをいただく。

 あ、美味い。

 カリカリの衣と溢れる肉汁。しみ込んだ調味料に旨味が合わさって……。


「ああ、これやばい」


 普通のから揚げより絶対美味い。

 二人も一口味見して絶句した後は無心で食べている。

 これは本当にやばいなぁ。


 でも、魔力が上がるって感じはないなぁ。

 念のために『鑑定』でステータスを確認しているけど魔力の値に変化はない。

 やっぱりただの都市伝説?

 王国は魔物食から遠ざかっていたし……と、サマリナを見て止まった。


 またサマリナの目が光っていた。

 しかも光っているのは目だけじゃない。

 全身もほのかに光を放っている。


 うん、魔物を食べて強くなれるのってサマリナの体質……いやスキルが原因だったりしないかな?


 さすがファウマーリ様……いや、祖王の子孫ってことかな。


 あ、でも魔物食には俺にとってもいいところがあった。

 最近はあまり満腹を感じなかったんだけど、久しぶりに腹いっぱいになった。

 魔物食はカロリーが普通より高いのかも。




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