89 地上へ
その後、少し話し合ってからポータルで地上に戻った。
「あっ!」
「出てきたぞ!」
ダンジョン入り口の周りは無数の兵士やエルフの人たちで固められていた。
三人にはすでに説明していたので、動揺はない。
でも暴動みたいになって殺到されたらたまらないと身構える。
「落ち着きなさい!」
フェフが凛と声を放った。
「え?」
「その声は?」
「この方は末姫のフェフ様である!」
ウルズが声を張ると、周りのエルフたちに動揺が走った。
「フェフ様!?」
「亡くなったのでは!?」
「どういうこと!?」
「静まりなさい!」
そんなエルフたちをフェフが一喝する。
『風精シルヴィス』に音声を伝えさせ、隅々にまで強い言葉が届く。
「これからの国について重大な話があります。各大臣、それから庶民派を名乗る者たちの重要人物は城の会議室に集合しなさい。来ない者は今後のルフヘムの未来に興味ない者だと判断します」
フェフはそう言い切り、集合の時間を区切ると俺たちを率いてその場を抜け出る。
「なっ、お待ちを! どういうことか!」
そう叫んだのはナディだとわかった。
その瞬間、俺たちは動いた。
俺は『樹霊クグノチ』を起動させて蔓の鞭で床を砕き。
ウルズは『魔導の才知』で改造させた『炎波』で背の低い壁を作り。
スリサズは『影の住人』でナディと他に近づこうとした者たちの影から槍を作り。
……そうしてそこにいたエルフたちを牽制する。
「話は、皆が集まってからです。いいですね?」
フェフは冷たい目で一同を圧し、再び歩き出す。
もう誰も止める者はいなかった。
フェフを先頭に城を進み、途中にいた人たちの驚く顔を無視して一室に入る。
待合室みたいな雰囲気がある。
たぶん、その通りなんだろう。
「フェフ様! お見事です」
「うんうん」
「あ~緊張した」
フェフが胸を押さえて長く息を吐き、それから三人で顔を見合わせて笑った。
三人のその様子にほっとした。
「さて、じゃあちょっと休憩しようか。なに食べたい?」
「「「お肉」」」
ほんとにこの子たちは肉食になったなぁ。
「……じゃあ」
こういうときはお祝いステーキだ!
熱々の鉄板皿に乗った分厚いステーキ。
「「「おおおおおお!!」」」
三人が揃って喜ぶ。
うまうまと食べる三人にほっこりしながら俺もステーキを食べる。
とりあえず、これでひと段落かぁと切った肉をもぐもぐしながら考える。
これからどうしようか?
王都に戻ってまた借家を借り直すか?
あ、ドワーフのところと定期的に酒を卸す約束をしてるのか。
でも、フェフが王になるわけじゃないし、別にいいのか?
いや、それはそれとしていいお客さんであるのは変わらないかぁ。
三人とこれからも暮らすのか。
暮らすのかな?
あれ?
どうなんだろ?
さっき話し合ったのは、ダンジョンを出てから他のエルフたちとどうするか? っていうところだけだったからなぁ。
「あのさ……」
「はい」
と、フェフが答えて三人が俺を見た。
「三人はこれからどうするつもり?」
「「「…………」」」
俺の質問に三人が目を合わせる。
「いや、ほら……もう王国に戻る必要はないわけだからさ」
「そんなの決まっています」
あたふたする俺にフェフが笑い、他の二人も明るくうなずく。
「家族希望ですから」
「もちろん、娘とかじゃないですよ」
「お嫁さんです!」
「お、おう……」
「「「だめですか?」」」
「……だめじゃないです」
そっかぁ。
しかたない、腹をくくるか。
パンと顔をはたく。
別ににやけそうになったのをごまかしたわけじゃないよ?
……ほんとだよ?
「それじゃあ、これからもよろしく」
「「「はい、よろしくお願いします!!」」」
それから時間が来て会議室に移動した。
そこはすでに満室の状態だった。
どう考えても大臣とか庶民派とかの重要人物だけじゃない。
それぞれの護衛もいるのかな?
ひりついた空気がそこかしこから感じられる。
着座したフェフの後ろに俺たちは立つ。
「では……」
と、フェフはまず自身のことを語る。
兄が世界樹を腐らせたことで暴走し、その災禍から間一髪で逃げ出して王国にいたこと。
そこで俺と知り合ったりしながら過ごしたこと。
冬を越えたところで騒動に巻き込まれ、そこでナディと再会したこと。
ナディの言葉でルフヘムに戻ってきたこと。
ナディは会議室にいる。
着座をしていることから、もしかしたら庶民派の中でも重要人物の一人なのかもしれない。
彼女は複雑な表情で俺たちを見ていた。
ナディに関してはそれ以上なにかを言うこともなく、フェフは次の話題に移る。
「これより、いままでずっと王家が秘匿していた豊穣の樹海について話します」
そう言った瞬間、会議室がざわめいた。
「姫、よろしいのですか?」
大臣っぽい人が聞いてくる。
「かまいません。なにより、もはやこの国は今まで通りにはなりませんから」
フェフのその言葉で会議室が一層騒がしくなった。
そしてフェフがダンジョンの中で起きたことを語る。
王子との遭遇。
エルフ王との遭遇。
そして、俺がいない間にエルフ王がフェフたちに語ったこと。
エルフ王の死。
会議室のざわめきは収まらず、うるさくなるばかりだ。
今までの生活が壊れてしまうというのだから、当然か。
「ど、どうにかする方法はないのですか!?」
「フェフ様が王位を継がれれば……」
「だが、このままの生活を続けるにはダンジョンに人を入れねば……」
「いっそのこと、解放して冒険者を招くか?」
「ばかな! もしその者たちが世界樹の若芽を手に入れたらどうするのだ!?」
地上にある世界樹は一つ。
王族が次代の世界樹候補を育て、王になる者以外は全て倒す。
この行為にはちゃんと意味がある。
それが地上にあることができる世界樹は一つだけという決まり。
成木は一つ。
それ以上が存在するとお互いに力を失って弱っていき、最後にはただの木と変わらなくなるそうだ。
その話を聞いてちょっとドキドキしたけれど、たぶん大丈夫だと思う。
『同じ地上』じゃないからね、うん。
「明言しますが、私は王位に未練はありません。父の意思を尊重します」
「そんな……」
大臣っぽい人たちが絶句している。
「ですが、父はあなた方に選択肢を残しました」
そう言って、フェフは世界樹の若芽を取り出す。
あの青りんご状のものに包まれたままだ。
「これは父の用意した世界樹の若芽です。育て方は、実を割って中にある種に自身の血を与えた後で土に埋めてください。成木となれば父と同じ状態となります」
その瞬間、熱意のある視線が複数発生して部屋の温度を上げた。
庶民派だけじゃなく、大臣たちの中からもそれは生まれた。
なんだかんだでみんな野心があるんだね。
「……あまり時間はありません。欲しいのであれば今夜中に誰が継承するのか決めてください。明日の朝、ここで結果を聞きます」
そう言うとフェフが世界樹の若芽を掴み、会議室を出る。
もちろん、俺たちがしっかりと守っていたから襲われることはなかった。
だけど出た後で、会議室はかなりうるさくなった。
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