85 竜樹戦


 でかい。

 ウッズイーターよりでかい。

 比較としては豆と人間ぐらい違う。

 もちろん俺が豆側。

 ウッズイーターとだと、竜樹デミラシルの方が一回り大きい感じかな?

 これだけの質量差を覆すなんてできるのだろうか?


「まぁ、やってみるしかないよね」


 ビビってはいるけど恐怖で体が動かないというほどではない。

 それに疑問に思うほど悲観的になっているわけでもない。

 ウッズイーターを一人で倒せたんだから、質量差で絶望する理由はない。

 あれよりは強いのだろうけど、あの時よりも強くなっている。


「問題なし」


 将軍の大弓に爆砕矢筒の矢を番えて射る。射る。射る。

 射撃しながら移動。


 GOOOOOOOOOOOOOOOO!!


 連続する爆発の中で竜樹デミラシルが吠える。

 その後、巨大な全身が震えた。

 なんだ? と思う間もなくすぐに変化が見えた。

 全身にある蔓の一部が動くと無数の筒を作り、そこから何かを吐き出した。

 上に飛んで……そして落ちてくる。


「うわうわうわ……」


 それは巨大な種の雨だ。

 逃げ回っているけど避けきれなくて、俺を守る『対物結界』がゴリゴリ音を立てる。

 種の雨は俺を狙って撃っているのではなく、まさしく雨の如くに周囲無作為に放射し続けている。


「ええい!」


 雨を逃げ回っても避けきれるものじゃない。

『対物結界』に注ぐ魔力を強めて爆砕矢を撃ちまくる。

 あ。

 降り注ぐ種雨が矢に当たって爆発する。

 これはだめだ。

 武器を幽毒の大剣と幽茨の盾に変更。

 ゴーストナイト装備になったので『仮初の幽者』が発動。

 降り注ぐ種雨のいくつかは体をすり抜ける。


「……ようし、やってやる!」


 気合を入れて『瞬脚』で距離を詰め、最後に『盾突+1』で体当たり。

 竜樹デミラシルの右わき腹ぐらいの位置に突っ込んだ。

 おお、浮いた。

 反動は『対物結界』の周りで衝撃波みたいになって散っていくのがわかった。

『血装』で強化した幽毒の大剣でさらに切り裂く。

 内部に入り込んだ『血装』の血でウッズイーターの時のように浸食をと思ったけれど、硬く跳ね返される感触があった。


「植物とは相性が悪い?」


 西の街のダンジョンのときから植物系の魔物からスキルの奪取もできていないし、たぶんそういうことなんだろうな。

 ウッズイーター相手だと『血装』による内部浸食が効いていたのが大きいんだけど……。


「だけどそれなら……!」


 ひたすら切りまくる。


「おりゃおりゃおりゃ!」


 表面の硬い樹皮が剝がれると、中から蔓の塊が覗く。

 それを切り裂くと、中から大量の水分が溢れ出す。


「うわっ」


 濡れると思ったら『対物結界』か『対魔結界』が反応して弾いた。

 頭痛を呼ぶ刺激臭が辺りに満ちる。

 また酸だ。

 しかもダムが決壊したみたいに大量にあふれ出してせっかく作った傷口から押し返されてしまう。

 酸の濁流に流されるなんて勘弁なので自分から逃げる。

 だけど、ただ距離を開けられるのも悔しいので『火矢』と『光弾』の連射を食らわせてやる。

 うわ、離れたら種雨が復活した。

 遠距離攻撃は種雨のせいで何割かが迎撃されてしまう。


「防御は万全だなぁ」


 こんなの、勝てる人間はいるのか?

『鋼の羽』や『炎刃』なんかの銀等級冒険者が多いパーティの戦いを見たけど、絶対にこれには勝てないと思う。

 ならその上の金等級なら勝てるのか?

 ……見たことないからわからないな。

 ともあれ、この巨大な魔物はウッズイーターの時も思ったようにレイド戦でどうにかするタイプだ。


「一人でやるのが無茶なんだろうけど」


 その無茶をやらないとどうにもならな……。


「あっ」


 いま、すごく関係ない思い付きが出てきた。


「ええ……でもなぁ……」


 これが成功したら、さすがにどうかと思うんだけど……。


「防御が硬すぎるし、やってみるかぁ」


 そのためには『ゲーム』を起動しないといけないから……。

 考えた結果、『眷族召喚』でブラッドサーバントを呼び出し、それらに『対物結界』『対魔結界』を張ってから俺の周りを守らせる。

 ドーム状になって俺を守るブラッドサーバントに種雨が降り注ぐけれど、各種結界のおかげもあって貫通してくることはない。

 よし、これで『ゲーム』を起動。

 キャラクターを動かしてアイテム欄を確認して持っているのを確認して……あ、どうせだから新品を作ろうとアイテム倉庫で材料を確保してクラフト台に向かってキンコンガンコンと作ってからそれを交易所へ。

 チャージしてあるお金でそれを買って手に持つ。

 うん。

 前に他で試したこともあるし、いける気がする。

 ブラッドサーバントを送還して一気に飛び出す。

 出るのを待っていたのか、それともタイミングが悪かっただけなのか、竜の顔部分がこっちに向いて口を大きく開けていた。

 ブレスだと読んで地面を蹴って方向転換。

 次の瞬間、その大口から大量の種が吐き出された。

 しかもその種、ある程度距離を飛んだところで火を噴いて弾けた。

 爆砕矢の種版というところか?

 爆発はけっこう激しく、そして大量の連鎖が爆発の領域を一気に膨張させていく。


「うわわ……」


 ぎりぎりで爆発の膨張から逃げ切り、再び方向転換して竜樹デミラシルに接近する。

 そして手にしたものを叩きつける。


 それは、斧だ。

 西の街のダンジョンでも使ったことのある斧。

『ゲーム』で領内の木を伐採するために使う斧。

 どんな木だって三打で切り倒すことができる斧。

 それが、竜樹デミラシルの左わき腹に食い込んだ。


 ゴオオオーーーーーーーーーーーーン!!


 と、すごい音と衝撃が竜樹デミラシルの全身を襲った。

 それでわかった。


「あ、これいける」


 脇腹が大きく裂けてそこから再び酸の放水が起こるのでそれを避けて後ろ足を打つ。

 再び大きな音。左の後ろ足が落ちた。


 GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 竜樹デミラシルが悲鳴と怒りの混じった声を放つと、首をいっぱいに伸ばして俺を見るとさっきのブレスを放った。

 寸前で跳躍。

 大樹の伸びた背中に三打目を叩きつける。


 三度目の大きな音。

 次の瞬間、打ち込んだ場所を中心に竜樹デミラシルに大きなひびが走り……そして、崩れていった。


「……これはいかん」


 植物特効武器としてもすごすぎるんではなかろうか?

 そんなことを考えている間に竜樹デミラシルの死体は消えてなくなり、周囲に散らばっていた種雨の残骸や酸の液体も消えてなくなった。

 残ったのは平板なただ広い空間。

 地面もなんだか作り物めいていて気持ち悪い。


「なんだこれ?」


 なんか変だ。

 そういえば次の階層に行くための階段も出現していない。


「……ズルだからバグってフリーズした?」


 あの斧の効果はさすがに想定外だよね。

 って、それじゃあ完全にゲームだ。


「まさかこの世界がゲームってそんなわけ……」


 いや、少なくともこのダンジョンはゲーム的だけれど。


「あっ」


 そんなことを考えてなにか不安な気持ちになっていると、唐突にいつものご褒美宝箱が現れた。


「なんだもうびっくりした」


 あのままなんの変化も起きなかったらどうしようかと思ったよ。

 まだ階段が出てないのは気になるけど、もしかしたらここがダンジョンの最下層かもしれないわけだしね。


「さて、中身は何かな?」


 宝箱を開けて『鑑定』を使う。


『世界樹の若芽:真祖・世界樹へ繋がる分体。その発芽は豊穣を約束する』


「あ、出てきた」


 ん?

 これだとエルフ王から世界樹の若芽をもらう必要はないよね?

 ん~?


「なんだこ……」


 そこまで言いかけて、かすかな痛みに掌を見る。

 世界樹の若芽。大粒の種から飛び出した小さな芽。

 それが俺の手のひらに突き刺さっていた。


「は? ……え……………………」


 そこまで呟いたところで、俺の意識は真っ暗になった。



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