83 考えても無駄なこと


 どうしたものかなぁ?

 エルフ的には三人はちゃんと成人だっていうし問題ないんだろうけど、見た目がなぁ。

 こっちだと割と若い内からの結婚って有りだし……。

 もう何十年こっちで暮らしてんだよ、いい加減染まれとも思うんだけど、何気にあっちの世界での常識がちょいちょい顔を出してくる。

 う~ん。

 思い切るなにかが欲しいなぁ。


 そんなことを考えながらダンジョン攻略は続く。

 二十階を超えたせいか、魔石以外のドロップアイテムが姿を見せるようになってきた。

 この法則はダンジョンでは普遍的なものなのかな?


『氷結矢筒:氷結効果のある矢の入った矢筒』


 とか。


『爆砕矢筒:爆砕効果のある矢の入った矢筒』


 みたいなのが多い。

 エルフは弓矢ってイメージがあるけれど、うちの三人娘は誰一人として弓矢は使ってないんだけどなぁ。

 せっかくなので使ってみる。

 将軍の大弓を出してきて、近づいてきた魔物を撃つ。


 あ、出てくる魔物は相変わらずの植物系魔物たちばかり。

 大きな花を抱えて移動し精神異常系の匂いをばらまくモノや、熊なんかの大型の獣に寄生しているモノ、驚いたのだとミノタウロスに寄生しているのがいた。

 まだミノタウロスにも会っていないのに派生型みたいなのを先に見るなんてと思いつつ倒していく。

 寄生型は中が生き物なんだから吸血で何とかならないかなと思うんだけど、やっぱり『植物共感』以外のスキルは手に入らない。

 おかげで『植物共感+10』になってしまった。

 何に使えるスキルなのかまるでわからない。

 このダンジョンでは全く役に立たないし。

 ほんとなんなんだろこれ?


 クレセントウルフに盾役をさせつつ弓矢で倒していく。

 もったいない使い方かなぁと思うんだけど、この手の特殊矢筒はすごくたくさん手に入るので、もったいないと思う暇もない。

 むしろ使わない方がもったいないぐらいありそうなので使いまくる。

 そんなことをしている間に三十階に辿り着いてしまった。


「う~ん」

「絶対、こんなに簡単じゃないと思うんだけど……」

「アキオーンさんはすごいです!」

「「それは知ってる」」


 三人がそんなことをしている後ろで扉を開ける。

 そこは無数の木の根で作られた闘技場のような場所だった。

 そして、その中央には……。


「よく来た」


 喋った。

 そこにいたのはエルフだ。

 体のあちこちから蔓のようなものが生えている。寄生植物に捕まっている?

 喋るということは意思がある?

 なんだか変だな。


「お父様!?」


 そして、フェフがさらに驚くことを言う。


「え? お父様って……」

「王です」


 ウルズが言う。スリサズも頷く。

 どうやら本当にルフヘムの現王……エルフ王らしい。


「つまり、生きている人ってこと?」


 それがどうしてここに?

 他に、ボスらしき魔物の姿は見当たらないけれど?


「……無関係の者がいるな」


 エルフ王が噂通りの冷たい視線で刺してくる。


「お父様。私は……」

「まぁ、かまわん」

「……え?」

「非常事態だ。むしろ行動したことを誉めてやろう。あやつの暴走から生き残ったことも評価に値する」

「お父様。私は王になる気はありません」

「なに?」

「私は嫌になったのです。王は兄で……」

「あやつなら死んだぞ」

「え?」

「お前たちの駆け抜けた罠の層でな」

「…………そう、ですか」

「余の子で生きているのはお前だけだ。だから……」

「それでも、私は王になりません」

「ほう?」

「王にはなりたい者がなればいいのです」

「ならば、どうしてここに来た?」

「あ、それは俺の希望でして」

「なに?」


 ここで、俺は手を挙げた。


「私事で世界樹の若芽が必要でして。彼女たちに協力してもらいました」

「……そうか」

「怒りませんか?」

「ここに来るまでに苦労はしただろう?」

「ええ、まぁ」

「ならばそれが、王として怒りの代わりだ。それを乗り越えてきたのだからもはや言うべきことはない」

「はぁ……」


 父親としては?

 と問いたいけれど、それなら他の子を殺した兄にまずその怒りを落とさなければいけないのになにもしていない。

 つまり、そこは問うだけ無駄ってことなんだと判断した。

 エルフ王がフェフから俺に目を移したまま、話し続ける。

 こちら側の決定権が俺にあると見定めた顔だ。

 そして、そうとわかればもう、フェフに目を向けることがなかった。

 本当に、父親としての情がない男なんだなと……ここまで希薄になれるのかと驚いた。

 まるで、情を持たずに生きてきたみたいな雰囲気だ。


「王として、いやこの地のエルフという種の代表者として、滅びることを黙ってみているわけにはいかん。取引をしよう」

「取引……ですか?」

「世界樹の若芽を一つやろう。すでに余が持っているものだ」


 そう言ってエルフ王が左手をこちらに向けると、そこから無数の蔓が現れるとともにそれが閉じた花のようなものを作り、そして開いた。

 そこに種がある。

 大人の手のひらに乗るような大きな種だ。

 ヒマワリの種に似ている。

 それが、ちょっとだけ割れていて、そこから芽が飛び出している。


「これが世界樹の若芽だ。余の言うことを聞くなら、これをやろう」

「……とりあえず、条件を聞きましょう」

「利口だな。では、お前一人でこの先に進み、四十階を攻略せよ」

「え?」

「その間、フェフたちはここに残ってもらう」

「それは……」

「ここまでの戦いは見させてもらった。お前なら不可能ではあるまい?」

「…………」


 三十階から先。

 未体験ゾーンだけれど、これまでの感覚からすると不可能ではなさそう。

 でも……。


「どうしてフェフたちをここに?」

「戻ってきてもらわなければ困るからだ」

「ああ、でも……」


 戻ってくるとしたら……。

 ここ……豊穣の樹海ダンジョンにもポータルはあったから地上に戻ったり元の階に戻ったりは簡単だけれど、途中の階に戻るのだとしたら……。


「念のために確認するんですけど、ボスの階は中から外には出れませんでしたよね?」

「うむ。ここに戻りたければ、一階からやり直さなければならん」


 俺の言いたいことがわかっているみたいでエルフ王は平気な顔で頷く。

 うわぁ、めんどくせぇ。


「フェフ……」

「私たちは大丈夫です」

「ここで待ってます」

「お待ちしてますね!」


 三人の意思確認と思ったけど、返事は即だった。

 そっかぁ。

 じゃあちょっと、がんばるか。





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