82 先に進むと
階段を下るとそこには疲れ切った顔の王子とその一行がいた。
もしかしたら数も減ってるかもしれない。
「お前たち……」
王子は信じられないものを見るような目をこちらに向けている。
誰も彼もが疲労困憊のようで俺たちが現れても立ち上がる様子がない。
「それじゃあ、お先に」
「ま、待て!」
こちらが通り抜けようとしていると王子が慌てて声をかけてきた。
「なぁ、手を組まないか? いまなら」
「すいませんが、すでに競争の約束をしましたよね?」
「フェフ!」
俺では話にならないと思ったのか、フェフに向かって叫ぶ。
だけど、彼女の対応も一緒だ。
「兄上、私は自分が王にならなければ誰でもいいのです。別にあなたでなくとも」
「フェフ!?」
「どうか、ご自分で試練を乗り越えてください」
「ぐっ……」
王子の視線から殺意が感じられたけれど、動く様子がない。
ボスとの戦いで動けないほどに疲れてしまっているみたいだ。
その視線に背を向けて、俺たちは二十一階の奥へと進んでいく。
出てくる魔物はやはり動く植物だったり植物がなにかに寄生していたりというのばかりだ。
スキルが手に入りそうにないものばかりなので、下への階段を見つけたらクレセントウルフに進路上の魔物を片付けさせ、後は魔石を拾いながらひたすら先に進むということを繰り返した。
そのおかげで『支配力強化』が+2に成長した。
クレセントウルフの動きがよくなった気がするし、『眷族召喚』するときの魔力負担が減ったような気もする。
そんなこんなでどんどん奥へ。
西の街のダンジョンと違って、複数の階層が合体したとてつもなく広い空間ということもなく、同じような風景がずっと続いている。
ちょっと、単調すぎて退屈だ。
なんて思ったのがいけなかったのかもしれない。
「なにか、変な臭いがしませんか?」
フェフが鼻を動かして辺りを見回す。
「ほんとですね?」
「なんでしょう?」
ウルズにスリサズも同じように鼻を動かして首を傾げる。
俺も同じようにする。
うん、確かにする。
なんだろう?
頭痛がしてきそうな刺激臭。
あんまり体によくなさそうだし、どこかで嗅いだことがあるような?
「変な感じだし、ちょっと先を急ごう」
なんて言った時だった。
あるいは、こっちの会話を理解していたとかもあるのかもしれない。
ズルっと……。
通路の壁役だったはずの木々や植物が解れた。
「はぁ!?」
無数の蔓系植物……プラントマンイーターになったかと思うと襲い掛かってきた。
ダンジョンに擬態していた?
それでこの臭いは……肉食植物の溶解液の臭いだ。
「ずるっ!」
ダンジョンの建造物は壊したらダメというルールがあるのに、これはずるい!
「走れ!」
階段までの通路は確保してある。
三人に襲い掛かる蔓を切り払いながら階段までひた走った。
前を守るクレセントウルフが蔓に捕まる。
持ち上げられたそれはいままで壁だと思っていた場所の奥から姿を現したオオウツボカズラに放り込まれていく。
クレセントウルフは幽霊みたいなものだから食われてもすぐに消えればいいから猟奇的なことにはならないんだけど、捕まる光景はやはりスプラッター寄りだ。
精神衛生的にとてもよろしくないのでさっさと走り抜けよう。
「スリサズ、影の中に!」
「あ、はい!」
スリサズには『影の住人』で俺の影に潜ってもらい、残りの二人は両手で抱える。
「さあ、舌を嚙まないように歯を食いしばってて!」
「「うあ、は、はい!」」
二人の返事を聞いてから、一気に速度を上げて階段を目指した。
「「うえぇぇぇぇ……」」
階段を降りたところで二人に限界が来たので休憩。
「階層全体が罠って、ずるいよね」
「本当ですね」
二人をテントで休ませて、スリサズとお茶休憩。
王子たちは無事に抜けられるのかな? と考えたけど口には出さなかった。
いちいち考えさせるのもね。
俺としては知らない間に脱落してくれているのが一番いいんだけど。
その方がフェフたちにとって後味が悪くないだろうなって思っている。
自分の手で直接っていう思いがあるなら、それに手を貸すのもやぶさかではないんだけど……。
「殺すなら、私がシュシュっとやります」
「へ?」
「王子のこと考えていたでしょう?」
「ああ……ええと、顔に出てた?」
「アキオーンさんはわかりやすいですよ」
「そっかぁ」
「アキオーンさんはもう十分に関わってもらってますから。王子を殺すなんて危険なことはさせられません。するなら私です。いまならできますよ」
「そういう考えはなしにしよう」
関わったとかどうとか、線引きするのはもうおかしいよね。
「だって、家族なんでしょ?」
「あう」
「家族なら、良いことも悪いこともみんなで持ち合わないとね」
「あうあう……」
なんだかスリサズが恥ずかしがってる。
「ええと……」
「うん?」
「アキオーンさんの中で私たちの……家族の役割ってなんですか?」
「え? それは……」
「あ、違う!」
「え?」
「違う違う! 言い方を間違えた!」
慌ててバタバタと手を振ると、スリサズは顔を真っ赤にして俺を見た。
「私……違う、私たちの希望はですね」
「う、うん……」
おや、なにか雲行きがおかしいぞ。
「奥さんがいいです!」
「……はい?」
「フェフ様が正妻で、私とウルズが側室でいいです」
「いや、それは……娘じゃだめなのかな?」
「娘だと、いつか出ていかないといけないじゃないですか」
「お、おう……」
「奥さんとして、ずっと一緒にいます。だめですか?」
「だめじゃ……ないけど……他の二人の意思は?」
と、テントを見てみると、二人が入り口のところに顔を出してうんうん頷いていた。
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