80 スローペースか効率化か
朝ごはんは手で食べれるサンドイッチにカップスープ。
見張りにクレセントウルフを召喚しているからそこまで周りを心配する必要もない。
「あのさ、提案なんだけど」
ご飯を食べて三人の頭が起きてきた頃合いを見計らって話しかけた。
「これからの攻略なんだけど、二種類の提案があるんだ」
一つはスローペース。
一階攻略するごとにちゃんと休憩をしながら進む。
十階までを急ピッチで攻略したけれど、そのせいでフェフたちはかなり疲労してしまった。
ダンジョンは下に行けば行くほど攻略難易度は上がっていくのだから、ちゃんと体力を管理する意味でも、じっくりと進んでいくという案。
もう一つは効率化。
さっさと下の階に向かっていくのなら俺が動いた方がいい。
彼女たちが動いた方が成長できると思ったけど、急いでいるなら後回しにすることも考えた方がいい。
「どうする?」
「「「効率化でお願いします」」」
即決だった。
「頑張ってみましたが、あんな調子でやっていたらすぐに動けなくなります」
「だからってのんびりしすぎるのも……」
「アキオーンさんのすごいところが見たいです!」
「「あっ」」
スリサズの素直な意見に二人が「するい」とか言い出す。
「それなら、俺がやっちゃうよ」
「あっ」
わちゃわちゃしている三人に癒されながら声をかけると、フェフが声を上げる。
「その前に一つ、いいですか」
「うん」
「私、ルフヘムの王になる気はありません」
フェフは居住まいを正すとそう宣言した。
「世界樹の若芽を求めていますが、これはアキオーンさんのためです。国のためではありません」
「いいの?」
「はい。私は国に戻る気はありません。ウルズ、スリサズ。もしあなたたちが国に……」
「戻りません!」
「フェフ様と一緒です!」
「わかりました。アキオーンさん、そういうわけですので国のことはお気になさらず存分にダンジョン攻略してください」
割り切ったなぁ。
「念のためだけど、いいの?」
「はい! 世界樹がなくなったとしてもそれでルフヘムが滅ぶわけではありませんし、王族が滅べば豊穣の樹海の制限も意味がなくなります。きっと誰かが世界樹の若芽を手に入れて同じことをするようになるでしょう」
「……なるほど」
国家を維持するのに王族は必要だけど現在を維持する必要が絶対っていうわけでもないしね。
あっちの世界では民主主義の国にいたわけだけど、あれをそのままここに持ってきたからってうまくいくとは限らない。
ていうか国家なんて重い責任は個人能力チートな俺には荷が重いので思考放棄でいいのです。
まぁともあれ……フェフたちがそれでいいのならいいや。
「それならそういうことで」
妖精祝福の木材のことをさらっと忘れている気がするけど……まぁ、交渉で手に入れようはあるかな。
たとえば世界樹の若芽を二個手に入れるとか。
食事も終わり、テントの片付けも終わり、いざ次の階へ。
実はすでにクレセントウルフを派遣して階段の場所は特定しているのでそちらに向かうだけ。
出てくる魔物はやっぱりプラントを冠した寄生植物に侵されているものばかりだった。
手に入るスキルも『植物共感』ばかりみたいで、ときどきぽんと成長する。
二十階に到着したときには『植物共感+7』になっていた。
そう、二十階のボス部屋前に到着した。
三日ぐらいで。
「ええ……」
「早すぎる」
「わーお」
今回は三人も元気だ。
後ろに回ってきた魔物を任せたりしたけど、ほぼ歩いていただけだからね。
「それじゃあ、行こうか」
「待てっ!」
背後の離れたところからその声は聞こえてきた。
振り返るとエルフの集団がこちらに近づいてきていた。
クレセントウルフの警戒は前に集中させていたから、後ろには弱いんだよね。
「兄上!」
中心に立っているちょっと背の低いエルフがフェフの兄なのか?
言われたら似ている? ぐらいの似ている感。
「貴様! 生きていたのか!!」
久しぶりに会った妹にその言葉。
殺伐してるなぁ。
「兄上、私たちは……」
「黙れ! 貴様に世界樹の若芽は渡さん! 行け!」
王子が周りの兵士に指示を出し、彼らも躊躇なく距離を詰めてくる。
だけど遅い。
クレセントウルフで周りを固めている。
「うっ」
状況に気付いた王子一味の動きが止まる。
「まぁまぁ、ちょっと交渉しませんか?」
俺はフェフたちをかばうように前に出ると王子に声をかけた。
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