63 獄鎖と怒りの幽騎士


 馬車は進んでいく。

 しばらく進み、馬車は止まる。

 ノックで出ていくと待ち構えていた御者がぎょっとした顔をした。


「あ、あんた一人か?」


 中を覗き込んでからもう一度俺を見て、そんな当たり前の質問をする。


「この中に入ればいいのかい?」


 目の前には立派な屋敷がある。

 だがこちらは裏側のようだ。

 大きさに似合わない普通のドアがそこにある。


「あ、ああ……そうなんじゃねぇのか? 知らねぇよ。それより……」

「いないのなら、俺一人だったんじゃないのかい?」


 そう答えると、もう御者は何も言わなかった。

 彼をおいて屋敷の玄関に向かうと、ドアの前で男に止められた。


「誰だお前は?」

「ボスが話があるそうですよ」

「なんだと?」

「通してもらえます?」

「待て、確かめる」

「その必要はない」

「なに?」

「押し通るから」


 男が反応するよりも早く、『装備一括変更』でゴーストナイト装備一式を身にまとうと幽毒の大剣で真っ二つに切り裂く。

 もちろん、『血装』で強化済みだ。


「ひ、ひええええええ!」


 瞬く間に血泥と化す男の様相に御者が悲鳴を上げる。

 そういえば、この御者は俺の顔を知っている。


「なら、仕方ないか」


 悪者に顔を覚えられるって、ぞっとしないからね。


「お、おたすけ」


 すべて言い切る前に血装の針を投げて額を貫いた。

 即座に血泥となる御者を見て、思う。


「今回は掃除が面倒だな」


 なにか手段はないものか。


“く、くく……”


「うん?」


 なんか、頭の中に声が響いた。

 ドラゴンロードに話しかけられた時の感覚に似ている。


“いやいや、たいしたもんだな。相棒”


 相棒って言葉ですぐにピンときた。


「もしかして、夜魔デイウォーカーの?」


“ああ、そうだ。お前に、良い手段を伝授してやろうと思ってな”


「あんた、一体、なんなんだ?」


“そいつはまたいつかな。ほら、いま必要なのはこいつだろ?”


 その声が聞こえた瞬間、頭の中にそれが浮かんだ。


“じゃあな。がんばれよ”


「あ、おい」


 呼びかけても、もう返事はなかった。


「まぁ、いいか」


 いまは使えるものを使うだけだ。

 教えてもらったのは『眷族召喚』で呼ぶことができる新たな眷族。


 ブラッドサーバント。


 呼び出すと、地面に溜まっていた血泥が起き上がり、人型を形作る。

 これが新しい眷族。

 あまり強くはないが、吸血後の血泥を利用することを条件にいくらでも増やすことができるという利点がある。

 それに……強くする手段も思いついたのでその処置も行う。


「屋敷の中にいる敵意あるものを襲え」


 俺が命じると、ブラッドサーバントは屋敷の中へ入っていった。

 同時にクレセントウルフも呼び出し、フェフたちを探すように命じる。

 ドアの側でしばらく待っているだけで、悲鳴がそこら中から聞こえてきた。

 その場でじっと耳を澄ます。

『制御』で抑えている能力も開放しているので、感覚もいつもよりも鋭い。


「え? なんなのこれ?」


 小さく、その声が聞こえた。

 スリサズだ。

 近かったのでダッシュでその場に向かう。


「あ、なんだお前!?」

「お前か! これは!?」


 そんなことを言ってくれる連中は撫で斬りに片付けていき、聞こえてきた場所に辿り着く。

 長い廊下の途中だ。

 近くに壺が飾られているだけで、他には何の変哲もない。


「スリサズ、いるのかい?」

「え? え?」


 誰もいなかった場所からいきなり声が響く。

 壺から伸びている影からスリサズが顔を出した。


「アキオーンさん、ですか?」

「そうだよ」


 兜を脱いでみせると、スリサズが安心した表情を見せた。

 黄金サクランボで手に入れたスキル『影の住人』で彼女は影から影に移動することができるようになった。

 それを使って偵察をしていたようだ。


「よかった。無事だった」

「ごめんなさい。家にいきなり押しかけられて……」

「君たちは悪くないよ。それより、ほかの二人は?」

「はい。大丈夫です。地下にいます」

「地下は安全?」

「硬い牢獄ですし、逆に立てこもることもできます」

「よかった。それなら応援を送るからしばらくそこで頑張ってくれって伝えておいて」

「……アキオーンさん?」

「後顧の憂いっていうのは、少しでもない方がいいよね」


 ニッコリ笑顔をしてから兜を被り直す。

 スリサズが影の中にいなくなってから、思念で眷族たちに命令を飛ばす。クレセントウルフは地下の牢獄に向かっていきフェフたちを守護。

 ブラッドサーバントは地下以外の場所にいるものを皆殺し。


 誰一人として、生かしては帰さない。





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