55 キレちらかりおじさん


 相手の集団の名前は『夜の指』

 裏稼業におけるパーティ名みたいなもの。

 王都の夜を席巻している裏稼業組織は他にあるから、『夜の指』はその下部組織か、独立した小集団なのだろう。

 どっちだっていい。

 フード娘たちの所に辿り着くまでいくらだって連中の繋がりは引っ張り続けるし、その後も厄になるならそうならなくなるまで潰し続けるのみだ。


 依頼札を独占していた男はやっぱり下っ端で、あれから『夜の指』の本拠に辿り着くまでにもう一人に道を尋ねないといけなかった。


 そこは貧民区の中にある廃屋の一つだった。

 地下が改造されているようで、そこを守るようにチンピラがたむろしている。


 魔法で薙ぎ払うのと、一人一人潰すの、どっちがうるさくないかな?

 ああ、いや。そうか。

 違う。

 誰にも見られない、見られた人間は全員消すという前提であれば、もっといい方法があるじゃないか。


『夜魔デイウォーカー』を起動させ、さらに『血装』を使う。


「え? なんだ?」


 廃屋の中に入り溢れ出した血の武器を空間一杯のギロチンにして、薙ぎ払う。

 切れ味良好。

 詰まることなく全員を両断できた。

 ギロチンは即座に分解して針の付いた管のようにして死体に刺しこみ、血を回収。残った肉泥はマジックポーチに吸い込ませておく。

 血の一欠けらも残さない。


 地下へと入っていく。

 狭い階段を下りきると立派な木製のドアがあり、その向こうから飲み屋のような喧騒が聞こえてくる。

 そのドアからは、入らない。

 狭い地下への階段にゲームから取り出した海岸砂を流し込む。お酒の瓶用に大量に採取しておいたから地上までの空間を埋めるのは簡単だった。

 それから向かうのはもう一つの出入り口。

 いざという時の脱出口。

 あるいは商品を運び出す時の搬出入口。


 商品。


 作業でわずかに落ち着いた怒りがすぐに燃え上がる。


『夜の指』の稼ぎは幾つかある。

 一つは表向きの商売。酒場の経営。

 だが、その酒場の裏には違法の賭博場がある。他には恐喝や詐欺、窃盗品の仲買いなど、一軒の酒場を中心にそれらを行っている。

 そしてもう一つ。


 人身売買。


 王都に流れてくる孤児の中から売れそうなのを見繕って売るのだという。

 そのためにフード娘たちを捕まえたのだと思うと……。

 隣の廃屋に隠されてある入り口を開ける。

 枯れ井戸のような穴に梯子が設置されているのでそれを下る。


「あん? 誰だおま……」


 降りた先にいた酔っ払いのような男の口を即座に塞ぎ、そのまま喉を締める。

 ここは……牢屋だ。


「おじさん!」

「アキオーンさん!」


 中にはフード娘たちがいた。

 他にはいない。


「よかった。無事だった」

「う、うん」

「じゃあ、ちょっとそこで待っててね。掃除をしてくるから」

「え? あ、あの……」

「大丈夫」


 戸惑うフード娘たちをおいて、牢から外に通じているドアを全力で殴って壊した。


「なんだお前!」

「てめぇ!」

「うるさい」


 もう目的は達成したんだ。

 ただの掃除対象の癖に粘ったりするのは止めて欲しい。


「ゴミは静かに片づけられろ」


『血装』で無数のギロチンを作り、一気に解き放った。


 ついでだから肉泥をゲームに移す作業をここで済ませる。全部きれいに肥料にしてやるよ。

 フード娘たちには見せられない光景だからね。さっと終わらせてしまおう。

 ボスっぽい男を最後に残して『夜の指』の生き残りや上の存在を確認した。とある奴隷商に繋がっていたのでもしかしたらそこも潰さなければいけないかもしれない。

 後は金目の物やら怪しい書類やらを空になったマジックポーチに放り込み、牢の所に戻った。

 鍵は見つからなかったけれど、力任せに引っ張ると鍵が壊れた。


「ア、アキオーンさん」

「ごめんね。待たせたね」

「い、いいえ」


 なんか、反応が戸惑った感じだ。

 そうだよね。びっくりしたよね。


「とにかく、無事でよかった」


 ほっとしたら、ちょっと力が抜けた。

 って、あれ。

 なんか、視界が滲むなぁ。


「おじさん?」

「アキオーンさん?」

「いや、なんだろこれ?」


 あれ?

 もしかしてこれ、涙?

 泣いてるのは……俺?

 なんでやねん。

 おっさんが泣いても感動はないし。

 もう、こういうのはやめろよ。


「アキオーンさん、どうして……?」

「いや。気付いちゃったんだよね」

「え?」

「情けない話だけどさ。この歳まで生きて来て、誰かのためになにかしたって記憶がさ、なくてさ」


 ああ、情けない。

 子供相手になにを話しているんだか。


「やっと、誰かのために役に立てたんだなって」


 情けない話だよね。

 もっと弱くてもっとお金を持っていない人でも誰かのために動ける人はたくさんいるだろうけれど、ここにいるアキオーンておっさんは、ここまで強くならないとそれができないんだ。


 だけどそれでも……。


「君たちの役に、立てたよね?」

「「「はい!!」」」


 なんだかフード娘たちも泣きそうだった。

 というか泣いた。

 それに合わせておっさんの涙もまた溢れ出し、四人で延々とその場で泣いてしまった。






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