第8話
「樹!!」
「よかった目覚めた!!」
私と奏多は喜び急いでナースコールを押す。樹に話したいことってなんだっけ?私は涙が滲んで
「樹……よかった……」
しかし安心していたのも束の間
「お前誰だよ」
そこには私が知らない冷たい人がいた。
「きっと事故のとき頭を強く打っているので記憶障害もありえなくないです。」
と医者は淡々と言う。私は医者の言葉をただ右から左に流すことしかできなかった。頭がどうだとか、ここの部分がおかしくなったかもしれないという言葉が呪文のように聞こえた。樹は自分の今の現状を理解するのに必死で、私には目もくれなかった。
私たちは医者の話を聞き終わりドアを閉め樹の病室に向かう途中樹が
「あんたさ、俺のなんなの?」
「お前!!彼女に失礼だろ!」
「は?こんなんが彼女?笑えるぜ。」
奏多は私を庇ってくれるが、樹の言葉が心にグサリとくる。
「奏多さぁ、こんなんが彼女っておかしくない?」
「いい加減にしろよ!」
と奏多は樹を殴り樹は驚いている。
「は?お前なんだよ!」
「それはこっちのセリフだ!梨都はお前のことが大好きで、お前も梨都のことが好きだったんだよ!!なのにこんな……」
と奏多は肩を落とし泣いている。私は奏多の後ろに隠れるよう涙を我慢するしかなかった。私は樹との日々を思い返す。
そこには樹がいつだって傍にいてくれて笑っていた。この恋は諦めたくない。だって樹がこの気持ちを教えてくれたんだから……。私は樹に
「私は樹のそばにいるから。それが彼女じゃなくてもいい。友達としているから!」
と言い奏多とその場を去った。絶対にこの手を離さない。あなたが幸せになる日まで。
奏多side
俺と梨都は病院近くの桜並木の道を歩く。するとそこにある男性が立っていた。その人は散っていく桜を見て悲しそうに笑っていた。俺と梨都はその人のことが気になって思い切って声をかけてみることにした。
「あ!あの!」
「?どうしました?」
「なんで、桜を見て悲しそうに笑っているんですか?」
と梨都は俺が聞きたいことを代わりに聞いてくれた。すると男性はしばらくして
「俺の大切な人が少し泣いてるように思えたからかな……」
と桜を見ながらそう言う。きっとこの人の大切な人はきっと遠くにいるかもしれない。
「俺はね、大切な人に最後まで愛してるって言えなかったんだ……当たり前になっちゃったんだよね。きっと……そばにいることが。」
と涙ながら話す。俺はその瞬間思った。この時代は言葉で伝えることが足りないと。だけど
「きっとあなたの大切な人は心で感じてくれたはずですよ。言葉にしないと伝わらないこと、言葉にしなくても伝わることってありますよね。愛は無償に注ぐことができますから。」
そう俺だって梨都が大事で大事でもう悲しませたくないし、樹のことを忘れてほしい
そう空に願った。
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