順路

ひら

□序

どうして私は、この雨の中で貴方に抱きしめられてるんだろうか。






俺が“再出発”の場所として選んだのは所縁も縁もない都会のど真ん中だった。


まさか、自分を満足させるためだけに作っていただけだった制作物が日の目を見るなんて思ってもみなかった。


この話を貰った時、俺はどんな表情をしたらいいか分からなかった。目の前のことに感情が追いついていってない状態で、どんな表情をしているか自分でも分からなかった。


俺は、暫く逡巡し、「返事はまだ考えさせてほしい。」と電話口で言った。

―― それから数日、俺は全く心ここに在らずといった感じで、けれど頭の隅では全く別のことを考えていた。

今まで、さして悩むこともなく、事も無く生きてきたので、深く傷ついたこともなかった。運動神経そこそこで、不得意教科もない。

でも、二月になると顔も名前もよく知らない女子から放課後飛び出されチョコを貰うという半ば地獄のような行事があり、それが苦悩でもあるといえた。


その後‘告白’されようものなら瞬時に言い訳を考えるのが決まりとなっていた。


身も蓋もないと言われそうだが、それに「俺も、」と言えたらどんなに良かったかと思う。


小学校で、幾度も幾度もそういうことが続き、それまでは渡されたモノを全部受け取っていたが、「好きだ」と言われてもそれに応えれもしないのにチョコを貰うのは申し訳ないと思うようになった。

また、‘恋愛事’に関して様々な噂が立つのもしばしばで、その的にされるのもだんだん決まりが悪くなっていた。

そんな矢先、あることが起こる。

小三の時のことだ。

二月十四日の朝、俺は毎度の如く数人に呼び出された。でも、心の中で腹は決めていた。曖昧にするのはもう終わりだ。それ相応の覚悟だった。

そして『それ』を俺は実際に行動に移した次の日のこと、教室に入ろうとするとあまり関わったことのない女子が俺の前に立ちはだかり、自分の肩を押し返したことを今でも覚えている。

――とどのつまり俺は、そのクラスの女子全員から敵対視されることになったというわけ。

思い出しても呆れ笑いしか出てこない程だった。


―― もう、三年前の春のことだ。あれから俺は、勘違いなんてされないように女子とは話さないようにした。告白もされないように、敢えて近寄り難い雰囲気をつくった。多分、中学に行っても「お近づき」になる女子は1人もいないだろう。

―― 自分の部屋に掛けてある新しい制服を見て、漠然と思った。



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