せんくんが あらわれた!
こんばんは。夜に寝室から出る時、明かりを点けなくてもへっちゃら。でも心の中はガクガクブルブル。そんな見た目は大人、中身は子供、つまりは余です。
「びにゃぁぁぁぁぁ――」
さて。そんな訳でコックが塩加減間違えたのか、何なのか知らないけど深夜にやたらと喉が渇いたので恐怖を押し殺しながらも水を飲みにやってきました、台所。
「――やぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
誰も居ないはずのその場所から零れ出る明かり。地を這うような呻き声。イビルアイを連れ出すか、とーくん辺りを抱いてこようか迷いながらも勇気を振り絞って中を確認した余の眼には恐怖映像が飛び込んできました。
尻尾の様に纏められた白い髪と一本角は見えずとも、浅黒い肌のその人物に余は心当たりがあります。人七種の内、最も戦闘に適しているとされる鬼種である彼の名は――
「せんくん? いったい、きみは、何を、やって、いるのですか?」
思わず片言にもなります。だって冷凍庫に頭突っ込んでるんだもん、せんくん。
「! みぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
そう。余の声聞いてテンション一気に急上昇。猫の様な鳴き声を上げ、足をバタバタやる男の子、せんくんは中々に楽しいことになっていた。
顔を突っ込んでいるのだ。我が魔王城が誇る大型冷蔵庫。その下段の冷凍庫に。
恐らく何かのはずみで、ころんと行った結果、自慢の角が底に刺さってどうにもならなくなったのだろう。見てる余的には良い絵だが、本人はそれどころではないらしく、みぃみぃ、にぃにぃ。
「しにゅー! しにゅーっ!」
「あー……はいはい。出したげますから足ばたばた止めるのだよ、せんくん」
兎も角。このままでは他の住人も起きて来てしまうのでせんくんの足を掴んで、えいやと引っこ抜く。でろーんと鼻水垂らした顔が見えた。そして、その顔には僅かな安堵。どうやら本当に怖かった様だ。
「? おろって?」
「だめだよ」
……が、安心したところで悪いが、余はまだ下ろしてやらぬのですよ、せんくん。
「さて、せんくん。下ろして欲しければ余とお話しをしましょうか?」
「…………やっ!」
笑顔の余の言葉に逆さまで顔をぷぃっ、と背けながらせんくん。どうやら自分が悪い事をしていたと言う自覚は有る様で、余、少し安心。
……でも尋問は続行します。
「そうですか。やですか。では、余、せんくんをまた冷凍庫にもどします」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!」
「では、とりあえず、その手のちゅーちゅーアイスとはさみを離すのだよ、せんくん?」
最早、冷凍庫は恐怖以外の何物でも無いらしく、絶叫してこちらの要求を呑むせんくん。余を見るその眼はまるで人質を取った相手に向けるソレだった。失礼な。
「さて。現行犯逮捕なのだよ、せんくん。――目的はちゅーちゅーアイスのヘタかの?」
何故に君と言い、ゆーくんと言い、けーちゃんと言い、そこまであのヘタを愛するのかと余は聞きたい。そしてとうくんは何故にその辺に拘らないのかも聞きたい。幼子よ、もっと我儘であれ。
「……ちやう」
「いえ。違いませんよ? せんくん、さっきちゅーちゅーアイスもってましたよね?」
「……………………とんできた」
「それは少し無理があるのぅ」
「……………………は、はえてきた!」
「それは更に無理です。もー! 何ですか! 余、嘘つきさんは嫌いですよ、せんくん?」
めっ。と叱りつけ、せんくんを床に下ろす。そのまま互いに正座して正面から向き合う。
「さぁ、正直に話して下さい、せんくん。余、怒らないですから」
キラキラと慈愛に満ちた笑みを浮かべてみたり。
「…………………………けんかするから」
「ん?」
「ゆーと、けーが、けんかするからね。だからとる」
「……えーと、つまりあのヘタが有ると喧嘩に成るから取っておくと言う事ですか?」
「ん」
「せんくんっ!」
かくん、と首を縦に振ったせんくんを抱き締める。
何と言う偉い子なのだ! そんな君を脅して素直にごめんなさい! だが安心して欲しい! そんな君の意思は余が継ぎます! 畜生! 涙で霞みやがるぜ!
「と、そんな訳で無事、二本のちゅーちゅーアイスから二つのヘタを摘出したわけですが……何故、その内の一つが君の口の中に在るのでしょうか?」
そして君はどうして余の口に残りのヘタを入れようとしているのでしょうか?
「いっしょっ!」
……ははぁん? さては余を同罪にする気ですね、せんくん?
やめて! こんな時間にアイス食べるとイビルアイに怒られちゃう!
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