とうくんが あらわれた!

 こんばんは。だるんだるんのジャージでちゃぶ台に頬を擦り付ける姿が史上最も似合う女性、即ち余です。

 さて、そんな訳でおこたです。城下のコビット共が笠編む位に冬真っ盛りの我が魔王領の強い味方、唯一無二の暖房器具です。

 先代の趣味か知らんが、石造り、超寒い。


「のう、イビルアイ?」

「何ですか、魔王様? ……いえ、聞きたいことは大体わかるんですが」

「うむ。それでも余は敢えて尋ねるよ。ゆーくん達、さっき寝たよね?」

「そうですね。自分、戦士様の要望に応えて、桃な太郎がフォースに目覚めて宇宙進出する話を語らされました」

「あぁ……リクエストした本人が真っ先に寝落ちしたアレかの?」

「えぇ。逆に賢者様を刺激して凄い根掘り葉掘り訊かれる事に成ったアレです」


 触手うねうねやりながら『いやはや、桃がどうやって第一宇宙速度を突破したかの説明をさせられるとは思いませんでしたよ』とイビルアイ。

 子供達の寝るまでの暇つぶしの相手として、ソレなりにシンドイ目にあったようだ。

 因みに余はその間、おっぱい星人のゆーくんに揉まれてました。ゆーくん、めっちゃ、はぁはぁしてた。

 余、そんな欲望に忠実過ぎるあの子の将来が心配。


「で、そんなシンドイ目に合いながらもどうにかこうにか四人とも寝かしつけたはずの余達の目の前には、今、にゃんこの耳が見えます」

「えぇ、猫の尾も見えます」


 つまりは猫人種の男の子が、とうくんが見えます。めっちゃ、みかん剥いてる。


「?」


 余とイビルアイの視線を受けて、こてん、と男の子。


「いや、不思議そうに小首を傾げるでないよ」

「――」

「だからと言ってみかんを剥く作業にも戻らないっ! もーっ、早く寝ないと駄目でしょ! 余、知りませんよ! とうくんが大きく成れなくてもっ!」


 め! と腰に手を当て、余。


「あー……魔王様? 盗賊様は、いつもお昼寝をキチンとなさり、代わりにこれ位の時間まで起きておられますよ?」

「え? 何ソレ? 体内時計ずらしてると言うことかの? 一体、何故――はっ! 職業意識? 盗賊としての職業意識が君にそうさせると言うことですか、とうくんっ!」


 やだ。余、どうしたらいいの? 保護者として叱るべき? それとも幼くして既に育ったその職業意識の高さを褒めるべき?


「た、大変だ、イビルアイ! 育児書にこの場合の模範解答が載っておらぬよっ!」

「そりゃそうですよ、魔王様。それに盗賊様はそこまで深く考えておりませんよ?」

「むっ! なんだ、貴様! とうくんを馬鹿にする気か! とうくんは賢い子なんだぞ! 凄く要領良いんだぞ! もうお箸でミートスパゲッティ食べれるんだぞ! 給料下げてやる、この知の四天王(笑)めっ!」

「(笑)っ! 今、(笑)とおっしゃいましたか? この女子力マイナス魔王様っ!」

「なっ! ま、マイナスっ! 今、マイナスと言ったかの? この触手生物! 上等だよ。表に出るのだよっ!」

「こっちのセリフですよ! 後、声、大きいです! 勇者様とか起きるんで抑えて下さい」


 わーわー。ぎゃいぎゃい。ぼこすかぼこすか。

 そんな和やかっぽい効果音で誤魔化しながら、先日やって来た騎士殿達では届かない領域の戦闘を繰り出す魔王軍のトップファイブの二人……と、言うか、余とイビルアイ。

 そうして余が音速領域の手刀をイビルアイの眼球に叩き込もうとしたその刹那――


「あげゆ」


 舌足らずの声でみかんが差し出された。ちっちゃな手の平が超らぶりー。


「――って、すげぇ! 見るのだよ、イビルアイ! とうくん、みかん剥くの超上手っ!」

「はっはっは。親バカも大概にして下さい、魔王様。みかん何て誰が剥いても――すげぇ!」


 ちっちゃなお手々の上にはつやつやと輝くオレンジ色の宝玉。あの白いのは勿論、丸のままで薄皮まで向かれて艶々と輝いていた。


「え? 何? とうくん、重曹でも使って溶かしたのかの?」

「? ばんばった。あげゆ。だから、だっこ」


 要約・そんなものは使っていません。頑張って剥きました。あげます。だからだっこ。


「とうくんっ!」


 無駄に盗賊の『きようさ』を発揮した愛らしいとうくんをぎゅっと抱きしめ、その猫耳の生えた頭にほっぺすりすり。可愛いのう。可愛いのう。


「ほら、言った通り大したことは考えていなかったでしょ?」


 『何が?』と、はしゃぐとうくんあやしながら、イビルアイに視線を投げる。


「魔王様を独り占めしたかったんですよ、盗賊様は」


 ……あー……成る程……。


「とうくん、とうくん、とうくんっ!」


 可愛い奴め! 可愛い奴め! 可愛いやつめぇー!








あとがき

そんな訳で新作です。

一話以外は原則こんな感じで文庫四ページちょうどに収まる四コマ小説スタイルで行きます。

さくっと読めるのできがるにどぞー。

きらら系。多分。


いつもは心温まる作品を書いてる自分ですが、コメディを書いてみたくなったので、リハビリ中に書いてみた。

暫くは心温まるハートフルストーリーと噂の『剣客ウルフ』と毎日交互に上げてこうと思う。あ、今んとこストックはこっちが先に切れます。

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