第14話

 それは私の想像を遥かに超えたものだった。


 常日頃から表情が表に出ない鉄の仮面を被った鉄女だと揶揄される私ではあるが、この時だけは仮面を剥ぎ取り普通の女になれたのではないだろうか。


 それほどまでに凄まじい痛みと苦しみが私を襲った。


 汗と涙で顔中を濡らし、はしたないとは思いつつも苦しみの声が口から漏れだす。そして私は狂ったようにベッドの上で肢体を躍らせた。


 いったいどれほどの間そうしていたのかは正直なところ覚えていない。


 無事に産まれてきてほしい、という一点だけを念頭に置いていたので時間やその他の事など全く意識していなかったのだ。


 一縷の光もささない暗闇の中をどれだけ全速力で駆け抜けたか、体力も気力も底をつきついには生命さえも底をつきかけたその時、


「ーーーーぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ」


 新たな声が世界に響いた。


 その声が耳に届いた途端、それまで暗闇の中を突き進んでいた私の目の前に突如、信じられないほどの光が一気に差し込んできた。


 その光は世界に蔓延っていた暗闇を打ち砕き、辺りを白一色に染めた。


 私は強すぎる光を手で遮りながら白一色の世界を見渡す。私が待ちに待った光景がそこにあると確信していたからだ。


 私は必死になってその白い世界を見渡す、痛みや苦しみは今は嘘のように消え失せていた。


 そして、


 私はついに見つけた。


 手を伸ばせば届く距離、薄雲が渦巻く中心に私の求めているものはあった。


 小さな小さな生命の灯火。


 私の、赤ちゃん。


「ーーーーリィ様! アーリィ様! 元気な女の子ですよ!」


 ミレニアさんがそう言って私のとなりに赤ちゃんを寝かせる。


 赤ちゃんは小さな小さな手をぎゅっと握り締め、懸命に声をあげている。


 ようやく逢えた、私の赤ちゃん。


 私は赤ちゃんの頭を指先で撫でる。信じられないほどに柔らかい感触が指に伝わりたまらなく愛おしくなる。


 涙が自然と頬を伝う。


 初めまして、私があなたのママよ。


 これから先、どんな事があっても必ずママが守ってあげるからね。


 だから安心して大きくなって。


 よろしくね、私の可愛い可愛い赤ちゃん。


 




 








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