第12話

「あなたは……マシュー嬢?」


 カーテンの影に隠れるようにしていた人物は思いもよらない人物ーーーーマシュー嬢であった。


 マシュー嬢とはオリバーと結婚する数週間前に初めて出会った。あの時は他にもガイアン嬢、オルテン嬢という二人のご令嬢もいて仲良くお茶会を開いたりしたものだ。


 ガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢といえば黒い三令嬢として社交界で噂になっている三人組である。なぜ黒い三令嬢と呼ばれているのかはよく分からないが。


 そんな黒い三令嬢ことガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢は、私とオリバーの結婚後ぱったりとその姿を見せなくなっていた。


 なので、もしかしたらオリバーとご令嬢達の間で何かしらの諍いなどが起きて私の知らない間に疎遠な関係になってしまったのではないかと勘繰っていたのだ。


 そんなマシュー嬢がまさかオリバーの部屋から現れるとは夢にも思わなかったので、私としてはまさに晴天の霹靂というものだ。


「こ、こんにちは。アーリィ、婦人」


 マシュー嬢はオリバー同様に乱れた着衣を直しながらそう口にした。


「こんにちは、マシュー嬢」


 言いながら私はマシュー嬢の顔を確認するが、彼女は視線を床へと落とし非常に落ち着かない様子である。


 また何かの理由で機嫌が悪いのであろうか、などと考えていると。


「ち、違うんだ! アーリィ!」


 と、目の前のオリバーは以前どこかで聞いたようなことを口にする。


「違う? 何が違うの?」


「あ、いや、だから、その……マシュー嬢とは、ただ話を……」


 なぜかオリバーは口籠もりながらそう説明する。


「落ち着いて、オリバー。何をそんなに慌てているの?」


「え? いや、だって……」


「?」


 オリバーはひどく混乱したような表情を浮かべている。


 彼は時々こんな風になることがあるのだけれど、いったいどうしたというんだろう?


 一種のパニック障害のようなものなのだろうか?


 ふと私の隣にいるミレニアさんの方へ視線を向けると、ミレニアさんの表情もどこか暗い。


 それからしばらくの間、沈黙が続いた後にオリバーがゆっくりと口を開いた。


 表情はすでにいつものオリバーのものへと戻っている。


「ありがとうアーリィ! 会いに来てくれて本当に嬉しいよ! 同じ邸にいるのにずっと会えなかったから寂しかったんだ。今日は本当にありがとう!」


 私の肩を抱きながら少年のような笑みを浮かべそう口にするオリバー。


 良かった。どうやら喜んでくれたらしい。


 その後、マシュー嬢はすぐに邸を後にして私はオリバーと久しぶりの談笑を交わしたのであった。

 




 数日後。


 ミレニアさんが教えてくれたことなのだが、マシュー嬢は私と会った日の以前からオリバーの部屋を度々訪ねて来ていたらしい。


 二人は部屋で数時間を共にするという日々を送っているのだとか。


 二人が仲直りしたのは良いことだが、私が苦しんでいる最中に私をほったらかしにして二人で楽しむというのはどうなんだろう? というひとつの疑問が私の胸に残った。


 病める時も健やかなる時も共にあり続けると神の前で誓い合った筈なのに。


 上手くは言えないが、何となくモヤモヤする私であった。







 













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