第9話 ツーステップ

 それは今から十ヶ月ほど前のことである。


 私、アーリィ・アレストフはオリバー・マカロフと結婚した。


 その日から私はアーリィ・マカロフ婦人として生きることになった。


 結婚式には多くの方々が参列してくれ、私達を心から祝福してくれた。


 そんな賑やかな結婚式が終わってしまうと途端にいつもの日常が舞い戻ってきた。


 オリバーと私の結婚生活はいわゆる普通というものだ。


 今までと変わらず、ただ同じ邸で寝起きを共にするようになっただけ。


 まあ、本来結婚というものはそんなものだろう。


 劇的に人生が一変するようなものではない。


 変化といえば、例の黒い三令嬢ことガイアン嬢、オルテン嬢、マシュー嬢の三人組は結婚後はぱったりとその姿を見せなくなった。


 オリバーに聞いてみても、彼自身よく分からないらしい。


 だから私はきっとお茶会の席でオリバーが三令嬢に何かしらの失礼を働き、それが理由で嫌われてしまったのではないかとみている。


 三令嬢はいつも不機嫌そうにしていたので、ありそうな展開だ。


 新たな友人が出来て密かに嬉しい思いの私だったが、残念ながら彼女達と再びお茶会を開くのは困難なようだ。


 オリバーと三令嬢のわだかまりが解消するまでお預けというわけだ。


 互いに意地を張らず早く仲直りしてくれると良いのだが。


 結婚後、約三ヶ月ほど経つともうひとつの変化がおきた。


 それは私が妊娠をしたことだ。


 当然、私にとっても初めてのことで不安ばかりが胸に押し寄せた。


 私が妊娠したことを手紙に綴り両親へと知らせると、一通の手紙と共にひとりの侍女が邸にやってきた。


 お母様よりも少し年齢が上の綺麗な佇まいの侍女だ。


 侍女から手紙を受け取り中を確認する。手紙にはこう記してあった。


『私の可愛いアーリィ、まずは妊娠おめでとう。


 けれど決して油断してはダメよ。普段の生活の細部に至るまで注意を怠らないこと。その子を守れるのはあなただけなのだから。


 初めての妊娠でとても不安よね。私もあなたがお腹にいる時、毎日が怖くて仕方がなかった。


 でも大丈夫、安心して。妊娠から出産までの経験が豊富な信頼できる侍女をそちらに送るから。


 名前はミレニア。彼女の言うことをよく聞きなさい。少しでも不安なことがあれば彼女に何でも話しなさい。きっとサポートしてくれるから。


 ああ、それと、カロンのことだけど。あなたが妊娠したことが信じられないといった様子だったけれど、しっかりと喜んでいたわよ。孫の名前は何がいいかと今から考えているみたいだったわ。性別もまだ分からないというのに、気の早いことよね。


 それでは色々と大変でしょうが頑張ってね、愛しているわアーリィ』


 私は手紙を封筒へ戻して胸に強く押しつけた。


 お母様という心強い味方の存在が嬉しくてたまらなかったからだ。


「では、よろしくお願いします。アーリィ様」


 ミレニアさんは私に優しく笑いかける。


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 お母様が以前歩いた道を今度は私が歩く。見守ってくれるお母様とサポートしてくれるミレニアさん。二人がいればどんなに険しい道のりだって歩いていけると感じた。


 何も知らない当時の私は呑気にもそんな風なことを思ったのだ。


 

 




 



 

 















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